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No.729(2019.7.23)イラン情勢に関して:自衛隊と有志連合

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安倍自民党政権の大きな特徴の一つは、法解釈を捻じ曲げること。法の論理を無視すること。既成事実で無法状態を創り出すことにある。

法の原点である憲法解釈は、なし崩しと詭弁で何とでも運用できる。

ならず者国家” の横行。

イラン情勢についての、半田滋さんの論文。少し長いですが、説得力があると考えます。

(注1)半田滋 氏: 1955年生まれ。東京新聞論説兼編集委員獨協大学非常勤

           講師。法政大学兼任講師。

 (注2)下記論説の出所は、下記ですが、うまくリンクできないかもしれません。     

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 (注3)画像は当方が挿入。

自衛隊が有志連合に参加したら、攻撃に「全力で反撃できない」可能性 

         当てはまる法律がないから…半田 滋

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 トランプ米政権が中東のホルムズ海峡などの安全確保のため、有志連合の結成をめざすと表明したことを受けて、日本政府は海上自衛隊護衛艦派遣の検討を始めた。 

 派遣の根拠法令として、自衛隊法の「海上警備行動」の適用が有力視されるが、そもそも沿岸警備を想定した海警行動の武器使用には制約がある。 

 かといって、参院選挙を控え、臨時国会を招集して新法制定を目指すのは非現実的だ。見切り発車で海上警備行動による派遣を強行すれば、法の拡大解釈と現場の自衛官への責任転嫁になりかねない。

 

日本が抱えるジレンマ 

 米国のダンフォード統合参謀本部議長は9日、ホルムズ海峡などを航行するタンカーなどの護衛のため有志連合に加わる同盟国を、2週間程度で決定したいとの考えを示した。ダンフォード氏は「関係国と直接連絡する」と話しており、日本政府にも参加の働きかけがあったもようだ。 

 これに対し、野上浩太郎官房副長官は11日の記者会見で「イラン情勢について米国と緊密にやりとりしているところだ」と情報交換していることを認め、6月に起きた日本の海運会社が所有する外国船籍のタンカーへの攻撃について、「わが国の平和と安全を脅かす重大な出来事」との認識を示した。 

 山崎幸二統合幕僚長も同日の記者会見で「米国から参加の打診があったのか」との問いに「日米間でさまざまなやり取りをしているのは事実だ。関係国と連携してしっかり対処していきたい」と踏み込んだ。 

 タンカー襲撃事件の発生直後、政府の態度は今とは違った。 

 菅義偉官房長官は「背景を含めて予断を持って答えることは控えたい」と話し、岩屋毅防衛相も「現時点では自衛隊へのニーズは確認されておらず、部隊を派遣する考えはない」と慎重な姿勢を示していた。 

つまり、トランプ大統領のご機嫌は損ないたくないが、日本と友好関係にあるイランを刺激するのも得策ではない、というジレンマを抱えていたのだ。

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 それが米国による有志連合の結成表明を受けて、一転して自衛隊派遣の検討を始めたことをうかがわせる言葉に変わったイランと天秤に掛けていた米国への傾斜がぐっと強まったといえる。 

 

 適用できる法律がない

  政府にとっての難問は、民間船舶を護衛するのにぴたりと当てはまる法律がないことだ。 

 安倍晋三政権が制定した安全保障関連法のうち、「集団的自衛権の行使」や「他国軍の後方支援」を名目にして自衛隊を派遣するには、日本と密接な関係にある国が攻撃を受けている必要があるが、現状では戦闘は起きていない。

  ソマリア沖の海賊に対処するために制定された海賊対処法は、海賊にしか対処できず、例えば、相手がイラン軍やイラン革命防衛隊といった「国もしくは国に準じる組織」だった場合には対処できないことになる。 

 最後に残るのが、自衛隊法の海上警備行動だ。海上警備行動は、国内で警察権を行使する海上保安庁の対応能力を超えていると判断した場合に限定して発令される。本来は領海や内水など国内における活動を前提としている。 

 岩屋防衛相が「自衛隊へのニーズは確認されていない」と言い切った、政府にとっての不都合は残るものの、タンカー襲撃事件を名分として海上警備行動を発令できないのだろうか。 

 政府は安全保障関連法を議論していた2015年5月、平時でも有事でもない、いわゆるグレーゾーン事態で、自衛隊を治安出動や海上警備行動で出動させるための「発令手続の迅速化」の3項目を閣議決定している。 

 3項目の中には「公海上でわが国の民間船舶に対し、侵害行為を行う外国船舶を自衛隊の船舶などが認知した場合における対処」があり、タンカー襲撃事件で海上警備行動を発令できるようにみえる。 

 ところが、内閣官房副長官補(事態対処・危機管理担当)付(いわゆる事態室)の担当者は「タンカー襲撃事件は3つの点で海上警備行動の発令にあてはまらない。まず『自衛隊が侵害行為を認知した』に該当しない、次に被害にあったのが『わが国の民間船舶』ではない、最後に侵害行為の主体が『外国船舶』かはっきりしない」と断言する。

 6月のタンカー襲撃事件の後に米軍が公開した、

 イラン艦艇とみられる船がタンカーの機雷を除去した際のものとされる写真

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 「では、護衛艦は派遣できないのか」と質問すると「所掌ではないのでお答えできない」との回答。何のことはない、最後は政治判断というのだ。 

 首相官邸はタンカー襲撃事件について、「予断を持たない」から「わが国の平和と安全を脅かす重大な出来事」へと評価を変えている。海上警備行動の発令は案外近いのかも知れない。

 

武器は使えるのか? 

 ホルムズ海峡はイランとオマーンの飛び地に挟まれた海峡で、もっとも狭い部分は約33kmしかない。海峡のオマーン側に艦船が自由に通行できる国際海峡が設けられている。 

 ホルムズ海峡を含むペルシャ湾中南部には2004年から、治安維持を担う多国籍軍「合同任務部隊(CTF)152」が置かれ、米国主導のもと、英国や湾岸諸国の海軍が艦艇を派遣している。 

 自衛隊を派遣するとすれば、このCTF152への参加が有力視される。日本はソマリア沖の海賊対処をめぐる多国籍軍「CTF151」に参加し、護衛艦と哨戒機を送り込んでいるほか、海上自衛隊将官が指揮官ポストに着くこともあり、その点での抵抗はない。 

 海上警備行動の根拠は自衛隊法82条である。あくまで警備なので、武器使用基準のハードルは高い。警察官職務執行法7条が準用され、必要な場合は威嚇射撃までは認められるが、相手に危害を与える射撃ができるのは、正当防衛(刑法36条)か緊急避難(同37条)の場合に限定される。 

 相手が軍艦や公船だった場合は、さらに武器使用が困難になる。政府は「国際法上、外国軍艦、公船はわが国の領海においてもわが国の管轄権が及ばないので、海上警備行動であっても武器使用できない」(2015年7月29日参院安保法制特別委、中谷元防衛相)との見解を示している。 

 国際法上、外国軍艦や公船に対して管轄権を行使できるのは旗国(軍艦や公船の所属する国)のみに限られており、こうした艦船には日本の国内法は及ばないからだ。

米艦船と航行するイージス護衛艦「あしがら」

 

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 その一方で「これらの艦船が不法に発砲や体当たりなどを行い、わが国船舶に危害を及ぼす場合には、海上警備行動により合理的と判断される範囲で武器使用できる」(同)との見解も示している。 

 中谷氏は「領海において」、日本船舶への侵害行為があった場合に限定して武器使用が可能と答弁しているわけだが、「公海において」や「国際海峡において」を前提にした政府見解は「見あたらない」(防衛省運用政策課)のだ。

 

相手が反撃してきたら… 

 公海などにおける武器使用をめぐる政府見解がないのは、繰り返すが海上警備行動は沿岸警備を大前提にしているからである。 

 過去に海上警備行動が発令されたのは、能登半島沖の不審船事件(1999年)、中国の漢級潜水艦領海侵犯事件(2004年)、ソマリア沖の海賊対処(2009年)の3件で、先行した2件はどちらも領海内で発動された。 

 不審船事件では、護衛艦が不審船を停船させようと威嚇射撃したが、不審船は日本の漁船を装っており、外国軍艦や公船ではなかった。領海侵犯事件では国連海洋法条約に従って、海上自衛隊が潜水艦を浮上させようと音響ソナーを海中に投下したが、武器は使用していない。 

 領海内における海上警備行動でさえ、慎重な武器使用が求められるのだ。そんな武器使用基準のまま、ホルムズ海峡に派遣される自衛隊を待ち構えるのは、イラン軍であり、イラン革命防衛隊である。 

 ペルシャ湾で10日、イラン革命防衛隊の武装ボート5隻が英国の石油タンカーの航路を妨害した。タンカーの護衛に当たっていた英海軍のフリゲート艦が機銃を向けて口頭でも警告したところ、イラン艇は引き下がったという。 

 英国のフリゲート艦の行動を、海上警備行動で出動した日本の護衛艦に置き換えてみよう。民間船舶に対する単なる航路妨害を、武器使用が可能な侵害行為とみなすのは無理がある。 

 今回の英海軍がやったように、自衛隊がイラン艇に武器を向けて引き下がればよいが、引き下がらない場合、自衛隊はどうするのか。海上警備行動を拡大解釈して威嚇射撃、船体射撃、危害射撃と段階的に武器使用を強めるのだろうか。 

 相手が反撃してきて、本格的な戦闘に突入するとすれば、日本政府は防衛出動で対処せざるを得なくなるだろう。民間船舶の護衛が戦争に発展するようでは、得られるものと失うものとの軽重が違い過ぎてバランスを欠くことになる。 

 海上警備行動は防衛相が首相の承認を得て命じることができ、国会の関与は不要だ。首相やその側近だけで、ホルムズ海峡への派遣の是非を決めるとすれば、極めて危うい。 

 有志連合への参加はかえって中東の緊張を高めるおそれがある。もとはと言えば、トランプ大統領が一方的に核合意を破棄したことから米国とイランとの対立が再燃した。

  そのトランプ氏は、来年の大統領選へ向けてアピールしようと場当たり的な政策を次々に表明。そんな政治的思惑に乗せられること自体が日本の安全保障の危機である。