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No.731(2019.8.4)イラン問題 :「もう一つの有志連合構想」

半田滋氏の論稿より。

https://gendai.ismedia.jp/preview/38a513a1d6b7524025c3caabc57fa36e18d4a01a

 

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 (この論評はその是非が微妙で、自分にも今、確信は持てませんが、評価に値するものではないかと思いました。)

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有志連合対応、米国とイラン「板挟み」の日本を救う妙案があった 浮上する「もうひとつの有志連合」構想 半田 滋

中東のホルムズ海峡を航行する民間船舶の護衛をめぐり、政府は米国主導の有志連合に参加しない形で自衛隊護衛艦を派遣できないか検討を始めた。その場合、新法を制定せず、自衛隊法の「海上警備行動」にもとづいて護衛艦を派遣する。

          

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日本はいま、米国主導の有志連合に参加しない各国との連携を模索しているが、その中で、イランとの友好関係を維持しつつ米政府の要請にも答える「第3の道」が浮上した。日本同様、米国とイランとの板挟みになっている英国が欧州主導の有志連合への参加を欧州各国に呼びかけており、これに合流する可能性もある。

 

米国もイランも捨てないためには?

 

トランプ米政権はホルムズ海峡や紅海のバブ・エル・マンデブ海峡などの民間船舶を護衛するため有志連合を結成する方針を示しており、22日に来日したボルトン大統領補佐官(安全保障担当)と河野太郎外相が協議をおこなった。

 

自衛隊派遣は考えていない」と明言していた岩屋毅防衛相は23日の記者会見で「先日、申し上げたのは『現時点では』ということ」と「現時点」を強調し、状況次第では派遣に踏み切る可能性を示唆した。

 

米国の狙いは、有志連合を結成することにより、イランへの圧力を最大限に強めることにある。これにより、中東の緊張を高めるおそれがあるが、日本政府は最大の同盟国である米国の意向を無視するわけにはいかないと判断している。

 

自衛隊を派遣する場合に重要なのは、イランとの友好関係を壊すことなく、米国の要請にも答える「妙案」が必要であることだ。

 

米国寄りのパーレビ国王が革命で失脚して以降、イランは米国と対立。トランプ大統領が昨年5月、イラン核合意から離脱したことをきっかけに対立はさらに深まった。

 

一方、日本は石油輸入などを通じてイランとの友好関係を築き、今年6月には、安倍晋三首相がイランを訪問した。

 

安倍首相のイラン訪問中、日本の海運会社が所有するタンカーが何者かの攻撃を受けたが、日本政府は「背景を含めて予断を持って答えることは控えたい」(菅義偉官房長官)、「自衛隊を派遣する考えはない」(岩屋防衛相)と慎重な姿勢を示していた。

 

それが一転して自衛隊派遣に傾いたのは、7月になって米国が有志連合の結成を呼び掛けたためだ。どのような対応が可能か、内閣官房、外務省、防衛省などで検討している。 

派遣する場合、適当な根拠法がないことが悩みのタネだ。 

安倍政権が制定した安全保障関連法に、民間船舶の護衛を規定した項目はない。ソマリア沖の海賊に対処するために制定された海賊対処法は、その名の通り海賊にしか対処できず、例えば、相手がイラン軍やイラン革命防衛隊といった軍隊であれば対処できないことになる。

 

新法を制定する場合、臨時国会を招集して議論する必要があり、時間がかかるという難点がある。武器使用基準の緩和が盛り込まれるのは確実とみられ、野党の強い反対も予想される。

 

「緩やかな連携」という方法

 

最後に残るのが、自衛隊法の海上警備行動である。

 

海上警備行動は、国内で警察権を行使する海上保安庁の対応能力を超えていると判断された場合に限定して発動される。ただし、護衛の対象は日本籍船や日本の会社が運航する外国籍船、日本人が乗船している船に限られ、外国船を護衛することはできない。

 

海外の活動では、ソマリア沖の海賊対処(2009年)で適用した例がある。緊急な海賊対処が必要との理由から海上警備行動を発動して護衛艦を派遣したものの、海賊対処法の施行によって、適用する法律が自衛隊法から海賊対処法に切り替わり、海上警備行動を根拠にした海賊対処は4カ月で終わった。

 

長期間の派遣が予想されるホルムズ海峡の活動で、日本関係船舶だけの護衛だけでは十分とはいえないが、もし外国籍船が襲撃されて、自衛隊が武器使用する事態になれば、現場の指揮官らが法律違反に問われるおそれがある。

 

そこで政府が注目しているのが、ソマリア沖の海賊対処で実施されている、各国が緩やかに連携する「多国間協力」の手法だ。

 

ソマリア沖の海賊対処には、米国主導の多国籍軍統合任務部隊(CTF)151」、そして欧州連合EU)主導の「UENAVFORアタランタ作戦」がある。

 

CTF151には、日本、米国、英国、トルコ、シンガポールなどが参加し、アタランタ作戦には、オランダ、ドイツ、スペイン、フランスなどが参加している。

アタランタ作戦」に参加したドイツ海軍のフリゲート艦「バイエルン」(Photo by gettyimages)

こうした多国籍軍の枠組みに入らずに軍の艦艇を派遣している国には、ロシア、インド、中国などがある。

 

多国籍軍の枠組みに入らない個別参加の国々は、二つの多国籍軍や他の個別参加国と情報交換しながら、重複しない時間帯を選んで、民間船舶をエスコートしてアラビア半島とアフリカ大陸の間にあるアデン湾を航行している。

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このような緩やかに連携する手法をホルムズ海峡でも適用すれば、民間船舶と民間船舶の間に自衛隊護衛艦や他国の軍艦が挟まる形となり、切れ間のない船舶護衛が可能になるというのだ。

EUと組むこともあり得る

 

護衛艦が外国籍船を護衛できないことに変わりはないものの、この枠組みに参加する国が増えれば、日本とは異なる法体系を持つ他国の軍艦によって、結果的にすべての民間船舶を護衛できることになる。

 

問題は、この枠組みにどれほどの国が賛意を表明するかにある。

 

英国は22日、「欧州主導の海上保護の作戦を展開する」(ハント英外相)と提案し、ドイツ、フランスがこの提案を歓迎する意向を示している。

 

英国、ドイツ、フランスはいずれもイラン核合意の維持を目指しており、イランとの友好関係を続けたい日本と利害が一致する。このため、日本が欧州主導の枠組みに入る選択肢も浮上したことになる。

 

折しも日本とEUとの間では昨年7月、「日EU戦略パートナーシップ協定」が締結され、今年2月から暫定施行されている。41分野での連携を約束しており、ホルムズ海峡の民間船舶の護衛は「平和および安全の促進」「危機管理」などに該当するとみられる。

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対米追従」との批判をかわし、EUとの連携を深めたい日本政府にとって、欧州主導の有志連合への参加は魅力的に映るのではないだろうか。

 

だが、今年6月、EU次期委員長になるドイツのフォンデアライエン国防相とクシュナー米大統領上級顧問がスイスの湖の船上で密談した。この密談直後の7月2日、突然、フォンデアライエン国防相の名前が次期EU委員長候補として挙がり、投票の結果、次期委員長に就任することが決まった。

フォンデアライエン次期EU委員長(Photo by gettyimages)

 

EUの背後に「トランプの影」がちらつくのだ。欧州主導の有志連合への日本の参加が、実は米国の思惑通り、という結果にもなりかねないのである。

戦争に巻き込まれては…

 

防衛省護衛艦のほか、ホルムズ海峡への哨戒機の派遣についても検討した。ソマリアの海賊対処ではジブチに置いた自衛隊拠点にP3C哨戒機を2機派遣し、必要とされるアデン湾上空からの監視活動のうち、7~8割を担っている。

 

だが、(1)攻撃された場合、墜落すれば乗員全員が死亡する危険があること、(2)現状では米軍の無人機で対応できていること、(3)ホルムズ海峡はアデン湾と比べて短いことなどから、派遣は適当ではないと判断した。

 

ジブチから近いバブ・エル・マンデブ海峡への哨戒機派遣は、対岸のイエメンにイランの支援を受けた反政府武装組織「フーシ派」がいるために、自衛隊が攻撃対象となりかねず、やはり派遣は困難と判断したとみられる。

 

日本の海運会社の保有するタンカーが6月13日に攻撃されて以降、日本関係船舶の被害は報告されていない。にもかかわらず、自衛隊派遣を決断するとすれば、それは米国への配慮以外の何ものでもない。

 

護衛艦が日本関係船舶を護衛している最中に、外国軍艦や公船が猛烈に発砲するなど侵害行為をエスカレートさせたとすれば、政府は防衛出動で対処することになる。民間船舶の護衛を目的に自衛隊が中東まで出向き、戦争に巻き込まれるようでは割に合わない。

 

この派遣は単なる護衛にとどまらない。ボタンを掛け違えれば、中東を戦火に巻き込みかねない重大事にもなり得る。

 

その意味でも、臨時国会を招集して民間船舶を護衛するための新法案を提出し、国民の理解も得られるように派遣の是非を議論してはどうだろうか。