湘南Theoの平和のページ・ブログ

戦争と、貧困・抑圧・差別の構造的暴力がない社会実現のために!

No.733(2019.8.10)<声明>  韓国は「敵」なのか

紹介

f:id:syounantheo:20190804144710j:plain

 

(下記ウェブサイトより、紹介)

https://peace3appeal.jimdo.com/

(注:本文中の画像は、この声明とは関係なく、挿入しました。)

 

  この声明は、昨今の日韓関係の悪化を憂慮する有志が執筆し、インターネットを通じて、日本の市民に賛同を求めるものです。78名の呼びかけをもって発信します。呼びかけ人の中には多少の意見の違いもありますが、基本的な部分で一致しています。

ご賛同いただける方は、下記の賛同フォームにてご署名ください。団体名、海外からの賛同も構いません。

賛同署名記入はこちらから: https://forms.gle/4Naxt9Aw4WfS1VK39

 第一次の締め切りは、8月15日といたします。状況の推移を見ながら、次の行動を考えたいと思います。

 

f:id:syounantheo:20190804144814j:plain

 

f:id:syounantheo:20190804144845j:plain

 

f:id:syounantheo:20190804144922j:plain

 

<声明>  韓国は「敵」なのか

 はじめに 

 私たちは、7月初め、日本政府が表明した、韓国に対する輸出規制に反対し、即時撤回を求めるものです。半導体製造が韓国経済にとってもつ重要な意義を思えば、この措置が韓国経済に致命的な打撃をあたえかねない、敵対的な行為であることは明らかです。

 日本政府の措置が出された当初は、昨年の「徴用工」判決とその後の韓国政府の対応に対する報復であると受けとめられましたが、自由貿易の原則に反するとの批判が高まると、日本政府は安全保障上の信頼性が失われたためにとられた措置であると説明しはじめました。これに対して文在寅大統領は7月15日に、「南北関係の発展と朝鮮半島の平和のために力を尽くす韓国政府に対する重大な挑戦だ」とはげしく反論するにいたりました。

 

1、韓国は「敵」なのか

 国と国のあいだには衝突もおこるし、不利益措置がとられることがあります。しかし、相手国のとった措置が気にいらないからといって、対抗措置をとれば、相手を刺激して、逆効果になる場合があります。

 特別な歴史的過去をもつ日本と韓国の場合は、対立するにしても、特別慎重な配慮が必要になります。それは、かつて日本がこの国を侵略し、植民地支配をした歴史があるからです。日本の圧力に「屈した」と見られれば、いかなる政権も、国民から見放されます。日本の報復が韓国の報復を招けば、その連鎖反応の結果は、泥沼です。両国のナショナリズムは、しばらくの間、収拾がつかなくなる可能性があります。このような事態に陥ることは、絶対に避けなければなりません。

 すでに多くの指摘があるように、このたびの措置自身、日本が多大な恩恵を受けてきた自由貿易の原則に反するものですし、日本経済にも大きなマイナスになるものです。しかも来年は「東京オリンピックパラリンピック」の年です。普通なら、周辺でごたごたが起きてほしくないと考えるのが主催国でしょう。それが、主催国自身が周辺と摩擦を引き起こしてどうするのでしょうか。

 今回の措置で、両国関係はこじれるだけで、日本にとって得るものはまったくないという結果に終わるでしょう。問題の解決には、感情的でなく、冷静で合理的な対話以外にありえないのです。

 思い出されるのは、安倍晋三総理が、本年初めの国会での施政方針演説で、中国、ロシアとの関係改善について述べ、北朝鮮についてさえ「相互不信の殻を破り」、「私自身が金正恩委員長と直接向き合い」、「あらゆるチャンスを逃すことなく」、交渉をしたいと述べた一方で、日韓関係については一言もふれなかったことです。まるで韓国を「相手にせず」という姿勢を誇示したようにみえました。そして、六月末の大阪でのG20の会議のさいには、出席した各国首脳と個別にも会談したのに、韓国の文在寅大統領だけは完全に無視し、立ち話さえもしなかったのです。その上でのこのたびの措置なのです。

 これでは、まるで韓国を「敵」のように扱う措置になっていますが、とんでもない誤りです。韓国は、自由と民主主義を基調とし、東アジアの平和と繁栄をともに築いていく大切な隣人です。

 

2、日韓は未来志向のパートナー

 1998年10月、金大中韓国大統領が来日しました。金大中大統領は、日本の国会で演説し、戦後の日本は議会制民主主義のもと、経済成長を遂げ、アジアへの援助国となると同時に、平和主義を守ってきた、と評価しました。そして日本国民には過去を直視し、歴史をおそれる勇気を、また韓国国民には、戦後大きく変わった日本の姿を評価し、ともに未来に向けて歩もうと呼びかけたのです。日本の国会議員たちも、大きく拍手してこの呼びかけに答えました。軍事政権に何度も殺されそうになった金大中氏を、戦後民主主義の中で育った日本の政治家や市民たちが支援し、救ったということもありました。また日本の多くの人々も、金大中氏が軍事政権の弾圧の中で信念を守り、民主主義のために戦ったことを知っていました。この相互の敬意が、小渕恵三首相と金大中大統領の「日韓パートナーシップ宣言」の基礎となったのです。

 金大中大統領は、なお韓国の国民には日本に対する疑念と不信が強いけれど、日本が戦前の歴史を直視し、また戦後の憲法と民主主義を守って進むならば、ともに未来に向かうことは出来るだろうと大いなる希望を述べたのでした。そして、それまで韓国で禁じられていた日本の大衆文化の開放に踏み切ったのです。

 

 3、日韓条約、請求権協定で問題は解決していない

 元徴用工問題について、安倍政権は国際法、国際約束に違反していると繰り返し、述べています。それは1965年に締結された「日韓基本条約」とそれに基づいた「日韓請求権協定」のことを指しています。

 日韓基本条約の第2条は、1910年の韓国併合条約の無効を宣言していますが、韓国と日本ではこの第2条の解釈が対立したままです。というのは、韓国側の解釈では、併合条約は本来無効であり、日本の植民地支配は韓国の同意に基づくものでなく、韓国民に強制されたものであったとなりますが、日本側の解釈では、併合条約は1948年の大韓民国の建国時までは有効であり、両国の合意により日本は韓国を併合したので、植民地支配に対する反省も、謝罪もおこなうつもりがない、ということになっているのです。

 しかし、それから半世紀以上が経ち、日本政府も国民も、変わっていきました。植民地支配が韓国人に損害と苦痛をあたえたことを認め、それは謝罪し、反省すべきことだというのが、大方の日本国民の共通認識になりました。1995年の村山富市首相談話の歴史認識は、1998年の「日韓パートナーシップ宣言」、そして2002年の「日朝平壌宣言」の基礎になっています。この認識を基礎にして、2010年、韓国併合100年の菅直人首相談話をもとりいれて、日本政府が韓国と向き合うならば、現れてくる問題を協力して解決していくことができるはずです。

 問題になっている元徴用工たちの訴訟は民事訴訟であり、被告は日本企業です。まずは被告企業が判決に対して、どう対応するかが問われるはずなのに、はじめから日本政府が飛び出してきたことで、事態を混乱させ、国対国の争いになってしまいました。元徴用工問題と同様な中国人強制連行・強制労働問題では1972年の日中共同声明による中国政府の戦争賠償の放棄後も、2000年花岡(鹿島建設和解)、2009年西松建設和解、2016年三菱マテリアル和解がなされていますが、その際、日本政府は、民間同士のことだからとして、一切口を挟みませんでした。

 日韓基本条約・日韓請求権協定は両国関係の基礎として、存在していますから、尊重されるべきです。しかし、安倍政権が常套句のように繰り返す「解決済み」では決してないのです。日本政府自身、一貫して個人による補償請求の権利を否定していません。この半世紀の間、サハリンの残留韓国人の帰国支援、被爆した韓国人への支援など、植民地支配に起因する個人の被害に対して、日本政府は、工夫しながら補償に代わる措置も行ってきましたし、安倍政権が朴槿恵政権と2015年末に合意した「日韓慰安婦合意」(この評価は様々であり、また、すでに財団は解散していますが)も、韓国側の財団を通じて、日本政府が被害者個人に国費10億円を差し出した事例に他なりません。一方、韓国も、盧武鉉政権時代、植民地被害者に対し法律を制定して個人への補償を行っています。こうした事例を踏まえるならば、議論し、双方が納得する妥協点を見出すことは可能だと思います。

 現在、仲裁委員会の設置をめぐって「対立」していますが、日韓請求権協定第3条にいう仲裁委員会による解決に最初に着目したのは、2011年8月の「慰安婦問題」に関する韓国憲法裁判所の決定でした。その時は、日本側は仲裁委員会の設置に応じていません。こうした経緯を踏まえて、解決のための誠実な対応が求められています。

 

おわりに

 私たちは、日本政府が韓国に対する輸出規制をただちに撤回し、韓国政府との間で、冷静な対話・議論を開始することを求めるものです。

 いまや1998年の「日韓パートナーシップ宣言」がひらいた日韓の文化交流、市民交流は途方もない規模で展開しています。BTS(防弾少年団)の人気は圧倒的です。テレビの取材にこたえて、「(日本の)女子高生は韓国で生きている」と公然と語っています。300万人が日本から韓国へ旅行して、700万人が韓国から日本を訪問しています。ネトウヨヘイトスピーチ派がどんなに叫ぼうと、日本と韓国は大切な隣国同士であり、韓国と日本を切り離すことはできないのです。

 安倍首相は、日本国民と韓国国民の仲を裂き、両国民を対立反目させるようなことはやめてください。意見が違えば、手を握ったまま、討論をつづければいいではないですか。

 

 2019年7月25日

 

呼びかけ人

 <呼びかけ>(太字は世話人) 2019年7月26日 現在77名 

 青木有加(弁護士) 秋林こずえ(同志社大学教授)浅井基文(元外務省職員)庵逧由香(立命館大学教授) 石川亮太(立命館大学教員)石坂浩一立教大学教員)岩崎稔東京外国語大学教授)殷勇基(弁護士)内海愛子恵泉女学園大学名誉教授)内田雅敏(弁護士)内橋克人(評論家)梅林宏道(ピースデポ特別顧問) 大沢真理(元東京大学教授)太田修(同志社大学教授)大森典子(弁護士)岡田充共同通信客員論説委員岡本厚(元「世界」編集長)岡野八代(同志社大学教員)荻野富士夫(小樽商科大学名誉教授)小田川興(元朝日新聞ソウル支局長)大貫康雄(元NHKヨーロッパ総局長)勝守真(元秋田大学教員)勝村誠 (立命館大学教授)桂島宣弘(立命館大学名誉教授)  金子勝(慶応大学名誉教授)我部政明琉球大学教授)鎌田慧(作家) 香山リカ精神科医) 川上詩朗(弁護士)川崎哲(ピースボート共同代表)小林久公(強制動員真相究明ネットワーク事務局次長) 小林知子(福岡教育大学教員)小森陽一東京大学名誉教授) 在間秀和(弁護士) 佐川亜紀(詩人) 佐藤学学習院大学特任教授)佐藤学沖縄国際大学教授)佐藤久(翻訳家)佐野通夫(こども教育宝仙大学教員)島袋純(琉球大学教授)宋 基燦(立命館大学准教授)高田健(戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会共同代表)髙村竜平(秋田大学教育文化学部)高橋哲哉東京大学教授)田島泰彦(早稲田大学非常勤講師、元上智大学教授) 田中宏一橋大学名誉教授)高嶺朝一(琉球新報元社長)谷口誠(元国連大使)外村大(東京大学教授)中島岳志東京工業大学教授)永田浩三武蔵大学教授)中野晃一(上智大学教授) 成田龍一日本女子大学教授)西谷修(哲学者)波佐場清(立命館大学コリア研究センター上席研究員) 花房恵美子(関釜裁判支援の会) 花房敏雄(関釜裁判支援の会元事務局長)羽場久美子(青山学院大学教授) 平野伸人(平和活動支援センター所長)広渡清吾(東京大学名誉教授)飛田雄一(神戸学生青年センター館長) 藤石貴代(新潟大学)古川美佳(朝鮮美術文化研究者)星川淳(作家・翻訳家) 星野英一琉球大学名誉教授)布袋敏博(早稲田大学教授・朝鮮文学研究)前田哲男(評論家)三浦まり(上智大学教授)三島憲一大阪大学名誉教授)美根慶樹(元日朝国交正常化交渉日本政府代表) 宮内勝典(作家)矢野秀喜(朝鮮人強制労働被害者補償立法をめざす日韓共同行動事務局長)山口二郎(法政大学教授)山田貴夫(フェリス女学院大学・法政大学非常勤講師、ヘイトスピーチを許さないかわさき市民ネットワーク事務局)山本晴太(弁護士)  和田春樹東京大学名誉教授)

 

No.732(2019.8.7)ミュージカルになった「高校生平和大使」

(高校生平和大使 とは)

 長崎市の市民団体が中心になり、公募で選んだ高校生を国連に毎年派遣して核廃絶を訴えています。

 集めた署名は通算170万人分を越えたそうです。

 2014年からは毎年8月にジュネーブで開かれる国連軍縮会議の本会議場で演説する機会を得ている。残念ながら、この二年間は演説に反対する国があるとの理由で見送りになってきました。

 昨年はノーベル平和賞の候補にもなりました。

 今年は8月18~23日、16都道府県の23人がジュネーブを訪問します。

 

「高校生平和大使」のウェブサイト(高校生平和大使 で検索もOK!)

https://peacefulworld10000.com/

 f:id:syounantheo:20190804141139p:plain

  

f:id:syounantheo:20190804141040j:plain

  (市民グループと懇親するメンバー)

 

f:id:syounantheo:20190804141010j:plain

(神奈川県・藤沢市での“不戦のつどい”にも毎年参加)

  

「高校生平和大使」は1998年、インドとパキスタンの核実験をきっかけに長崎から始まりました。

 平和大使以外の高校生らも協力し、核廃絶の署名集めを始めたのが2010年。

f:id:syounantheo:20190804140922j:plain

 運動は全国に広がり、昨年は15都道府県から20人が国連欧州本部(ジュネーブ)を訪問し、約11万人の署名を提出しました。

f:id:syounantheo:20190804140834j:plain

 「署名集め」を始めた2010年に、米中枢同時テロが起きた。こんな運動しても無駄じゃないかと高校生の間で議論になったそうだけれど、『自分たちの力は小さいけれど無力じゃない』と声が再び上がり、運動が続いているという。

 

 そんなこともあって、これをテーマにしたミュージカル「Signs(サインズ)~微力だけど無力じゃない」が今年の8月から東京で上演される。

 「もう核におびえるのはやめたいんです。恐怖で築く平和は、まやかしでしかないから・・・」

 「誰もが幸せに生きたいのに、争いやいさかいはなくならない。」「こんな世界を君たちが変えるんだ!」と、広島出身で被ばく三世の俳優・別所ユージさんらが中心になり、「戦争を風化させず、被爆体験を若い人たちが受け継いでいくことの大切さを伝えたい」と、ミュージカルに取り組んでいる。

 まずは8月8~12日、東京都・渋谷区の「渋谷区文化総合センター大和田」で上演が始まる。(検索):https://www.shibu-cul.jp/

 全国にこのミュージカルが広がっていくことができれば、素晴らしいと思う。

 

 

 

No.731(2019.8.4)イラン問題 :「もう一つの有志連合構想」

半田滋氏の論稿より。

https://gendai.ismedia.jp/preview/38a513a1d6b7524025c3caabc57fa36e18d4a01a

 

f:id:syounantheo:20190731214841j:plain

 (この論評はその是非が微妙で、自分にも今、確信は持てませんが、評価に値するものではないかと思いました。)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

有志連合対応、米国とイラン「板挟み」の日本を救う妙案があった 浮上する「もうひとつの有志連合」構想 半田 滋

中東のホルムズ海峡を航行する民間船舶の護衛をめぐり、政府は米国主導の有志連合に参加しない形で自衛隊護衛艦を派遣できないか検討を始めた。その場合、新法を制定せず、自衛隊法の「海上警備行動」にもとづいて護衛艦を派遣する。

          

f:id:syounantheo:20190731215548j:plain

  

f:id:syounantheo:20190731220700j:plain

 

f:id:syounantheo:20190731222054j:plain

日本はいま、米国主導の有志連合に参加しない各国との連携を模索しているが、その中で、イランとの友好関係を維持しつつ米政府の要請にも答える「第3の道」が浮上した。日本同様、米国とイランとの板挟みになっている英国が欧州主導の有志連合への参加を欧州各国に呼びかけており、これに合流する可能性もある。

 

米国もイランも捨てないためには?

 

トランプ米政権はホルムズ海峡や紅海のバブ・エル・マンデブ海峡などの民間船舶を護衛するため有志連合を結成する方針を示しており、22日に来日したボルトン大統領補佐官(安全保障担当)と河野太郎外相が協議をおこなった。

 

自衛隊派遣は考えていない」と明言していた岩屋毅防衛相は23日の記者会見で「先日、申し上げたのは『現時点では』ということ」と「現時点」を強調し、状況次第では派遣に踏み切る可能性を示唆した。

 

米国の狙いは、有志連合を結成することにより、イランへの圧力を最大限に強めることにある。これにより、中東の緊張を高めるおそれがあるが、日本政府は最大の同盟国である米国の意向を無視するわけにはいかないと判断している。

 

自衛隊を派遣する場合に重要なのは、イランとの友好関係を壊すことなく、米国の要請にも答える「妙案」が必要であることだ。

 

米国寄りのパーレビ国王が革命で失脚して以降、イランは米国と対立。トランプ大統領が昨年5月、イラン核合意から離脱したことをきっかけに対立はさらに深まった。

 

一方、日本は石油輸入などを通じてイランとの友好関係を築き、今年6月には、安倍晋三首相がイランを訪問した。

 

安倍首相のイラン訪問中、日本の海運会社が所有するタンカーが何者かの攻撃を受けたが、日本政府は「背景を含めて予断を持って答えることは控えたい」(菅義偉官房長官)、「自衛隊を派遣する考えはない」(岩屋防衛相)と慎重な姿勢を示していた。

 

それが一転して自衛隊派遣に傾いたのは、7月になって米国が有志連合の結成を呼び掛けたためだ。どのような対応が可能か、内閣官房、外務省、防衛省などで検討している。 

派遣する場合、適当な根拠法がないことが悩みのタネだ。 

安倍政権が制定した安全保障関連法に、民間船舶の護衛を規定した項目はない。ソマリア沖の海賊に対処するために制定された海賊対処法は、その名の通り海賊にしか対処できず、例えば、相手がイラン軍やイラン革命防衛隊といった軍隊であれば対処できないことになる。

 

新法を制定する場合、臨時国会を招集して議論する必要があり、時間がかかるという難点がある。武器使用基準の緩和が盛り込まれるのは確実とみられ、野党の強い反対も予想される。

 

「緩やかな連携」という方法

 

最後に残るのが、自衛隊法の海上警備行動である。

 

海上警備行動は、国内で警察権を行使する海上保安庁の対応能力を超えていると判断された場合に限定して発動される。ただし、護衛の対象は日本籍船や日本の会社が運航する外国籍船、日本人が乗船している船に限られ、外国船を護衛することはできない。

 

海外の活動では、ソマリア沖の海賊対処(2009年)で適用した例がある。緊急な海賊対処が必要との理由から海上警備行動を発動して護衛艦を派遣したものの、海賊対処法の施行によって、適用する法律が自衛隊法から海賊対処法に切り替わり、海上警備行動を根拠にした海賊対処は4カ月で終わった。

 

長期間の派遣が予想されるホルムズ海峡の活動で、日本関係船舶だけの護衛だけでは十分とはいえないが、もし外国籍船が襲撃されて、自衛隊が武器使用する事態になれば、現場の指揮官らが法律違反に問われるおそれがある。

 

そこで政府が注目しているのが、ソマリア沖の海賊対処で実施されている、各国が緩やかに連携する「多国間協力」の手法だ。

 

ソマリア沖の海賊対処には、米国主導の多国籍軍統合任務部隊(CTF)151」、そして欧州連合EU)主導の「UENAVFORアタランタ作戦」がある。

 

CTF151には、日本、米国、英国、トルコ、シンガポールなどが参加し、アタランタ作戦には、オランダ、ドイツ、スペイン、フランスなどが参加している。

アタランタ作戦」に参加したドイツ海軍のフリゲート艦「バイエルン」(Photo by gettyimages)

こうした多国籍軍の枠組みに入らずに軍の艦艇を派遣している国には、ロシア、インド、中国などがある。

 

多国籍軍の枠組みに入らない個別参加の国々は、二つの多国籍軍や他の個別参加国と情報交換しながら、重複しない時間帯を選んで、民間船舶をエスコートしてアラビア半島とアフリカ大陸の間にあるアデン湾を航行している。

f:id:syounantheo:20190731222711j:plain

 

このような緩やかに連携する手法をホルムズ海峡でも適用すれば、民間船舶と民間船舶の間に自衛隊護衛艦や他国の軍艦が挟まる形となり、切れ間のない船舶護衛が可能になるというのだ。

EUと組むこともあり得る

 

護衛艦が外国籍船を護衛できないことに変わりはないものの、この枠組みに参加する国が増えれば、日本とは異なる法体系を持つ他国の軍艦によって、結果的にすべての民間船舶を護衛できることになる。

 

問題は、この枠組みにどれほどの国が賛意を表明するかにある。

 

英国は22日、「欧州主導の海上保護の作戦を展開する」(ハント英外相)と提案し、ドイツ、フランスがこの提案を歓迎する意向を示している。

 

英国、ドイツ、フランスはいずれもイラン核合意の維持を目指しており、イランとの友好関係を続けたい日本と利害が一致する。このため、日本が欧州主導の枠組みに入る選択肢も浮上したことになる。

 

折しも日本とEUとの間では昨年7月、「日EU戦略パートナーシップ協定」が締結され、今年2月から暫定施行されている。41分野での連携を約束しており、ホルムズ海峡の民間船舶の護衛は「平和および安全の促進」「危機管理」などに該当するとみられる。

f:id:syounantheo:20190731223231j:plain

 

f:id:syounantheo:20190731223614j:plain

 

対米追従」との批判をかわし、EUとの連携を深めたい日本政府にとって、欧州主導の有志連合への参加は魅力的に映るのではないだろうか。

 

だが、今年6月、EU次期委員長になるドイツのフォンデアライエン国防相とクシュナー米大統領上級顧問がスイスの湖の船上で密談した。この密談直後の7月2日、突然、フォンデアライエン国防相の名前が次期EU委員長候補として挙がり、投票の結果、次期委員長に就任することが決まった。

フォンデアライエン次期EU委員長(Photo by gettyimages)

 

EUの背後に「トランプの影」がちらつくのだ。欧州主導の有志連合への日本の参加が、実は米国の思惑通り、という結果にもなりかねないのである。

戦争に巻き込まれては…

 

防衛省護衛艦のほか、ホルムズ海峡への哨戒機の派遣についても検討した。ソマリアの海賊対処ではジブチに置いた自衛隊拠点にP3C哨戒機を2機派遣し、必要とされるアデン湾上空からの監視活動のうち、7~8割を担っている。

 

だが、(1)攻撃された場合、墜落すれば乗員全員が死亡する危険があること、(2)現状では米軍の無人機で対応できていること、(3)ホルムズ海峡はアデン湾と比べて短いことなどから、派遣は適当ではないと判断した。

 

ジブチから近いバブ・エル・マンデブ海峡への哨戒機派遣は、対岸のイエメンにイランの支援を受けた反政府武装組織「フーシ派」がいるために、自衛隊が攻撃対象となりかねず、やはり派遣は困難と判断したとみられる。

 

日本の海運会社の保有するタンカーが6月13日に攻撃されて以降、日本関係船舶の被害は報告されていない。にもかかわらず、自衛隊派遣を決断するとすれば、それは米国への配慮以外の何ものでもない。

 

護衛艦が日本関係船舶を護衛している最中に、外国軍艦や公船が猛烈に発砲するなど侵害行為をエスカレートさせたとすれば、政府は防衛出動で対処することになる。民間船舶の護衛を目的に自衛隊が中東まで出向き、戦争に巻き込まれるようでは割に合わない。

 

この派遣は単なる護衛にとどまらない。ボタンを掛け違えれば、中東を戦火に巻き込みかねない重大事にもなり得る。

 

その意味でも、臨時国会を招集して民間船舶を護衛するための新法案を提出し、国民の理解も得られるように派遣の是非を議論してはどうだろうか。

 

No.730(2019.7.28)孫埼享氏の論説(領土問題)評価

孫埼享氏の一貫した下記論説は、歴史認識として正しいと考えます。 

                  

f:id:syounantheo:20190725225023j:plain

f:id:syounantheo:20190725225027j:plain

f:id:syounantheo:20190725225031j:plain

 

(2019.7.25付ウェブサイトより引用)

中国政府は24日、国防白書「新時代の中国国防」を発表。中国の国防白書発表は2015年5月以来4年ぶり。「南シナ海と釣魚島(沖縄県尖閣諸島)は中国固有の領土だ」と明記。 米国領有権問題日中のいずれの立場も取らない。紛争避けるため日本管轄で棚上げ合意。


(webで読む : https://ch.nicovideo.jp/article/ar1791416 アプリで読む : https://ch.nicovideo.jp/ch1332/app?from=blomaga_mail&ref=share

 

A:事実関係

中国政府は24日、国防白書「新時代の中国国防」を発表。

中国の国防白書発表は2015年5月以来4年ぶり。

南シナ海と釣魚島(沖縄県尖閣諸島)は中国固有の領土だ」と明記。(毎日新聞

 

B:評価  

日中双方とも、尖閣諸島について、自己の領土であると主張。

:まず、ポツダム宣言を見てみたい。  八 カイロ宣言ノ條項ハ履行セラルベク又日本國ノ主權ハ本州、北海道、九州及四國竝ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルベシ

カイロ宣言 「右同盟国ノ目的ハ日本国ヨリ千九百十四年ノ第一次世界戦争ノ開始以後ニ於テ日本国カ奪取シ又ハ占領シタル太平洋ニ於ケル一切ノ島嶼ヲ剥奪スルコト並ニ満洲、台湾及澎湖島ノ如キ日本国カ清国人ヨリ盗取シタル一切ノ地域ヲ中華民国ニ返還スルコトニ在リ」

:連合国最高司令部訓令第677号(scapin677) 日本と言う場合は次の定義による。 日本の範囲に含まれる地域として 日本の四主要島嶼(北海道、本州、四国、九州)と、対馬諸島、北緯30度以北の琉球(南西)諸島(口之島を除く)を含む約1千の隣接小島嶼 日本の範囲から除かれる地域として (a)欝陵島、竹島済州島。(b)北緯30度以南の琉球(南西)列島(口之島を含む)、伊豆、南方、小笠原、硫黄群島、及び大東群島、沖ノ鳥島南鳥島、中ノ鳥島を含むその他の外廓太平洋全諸島。(c)千島列島、歯舞群島(水晶、勇留、秋勇留、志発、多楽島を含む)、色丹島。 この指令中の条項は何れも、ポツダム宣言の第8条にある小島嶼の最終的決定に関する連合国側の政策を示すものと解釈してはならない。

:米国の立場 2004年3月24日Ereli国務省副報道官の説明。 ・1972年の沖縄返還以来、尖閣列島は日本の管轄権の下にある。1960年安保条約第五条は日本の管轄地に適用されると述べており従って第五条は尖閣列島に適用される。 ・尖閣の主権は係争中である。米国は最終的な主権問題に立場をとらない。

 尖閣諸島棚上げの経緯

(1) 日中国交回復時 尖閣諸島を巡る日中間の協議は1972年田中総理が中国を訪問し、日中国交回復を行った時から始まる。

中国側は「両国の指導者は、中日友好の大局を配慮することから出発して、釣魚島主権の帰属問題を一時棚上げにし、子孫に残して解決させることに一致合意した」と述べている。

他方日本側は最近、棚上げの合意はないと主張している。  

田中総理・周恩来総理会談記録(日本政治・国際関係データベース、東京大学東洋文化研究所)は次のように記している。

周恩来):日中は大同を求め小異を克服すべきである。 (田中)大筋において周総理の話はよく理解できる。具体的問題については小異を捨てて、大同につくという周総理の考えに同調する。 (田中):尖閣諸島についてどう思うか?私のところに、いろいろ言ってくる人がいる。 (周恩来):尖閣諸島問題については、今回は話したくない。今、これを話すのはよくない。石油が出るから、これが問題になった。石油が出なければ、台湾も米国も問題にしない。  

周恩来総理は今回は話したくない。今、これを話すのはよくない。と述べている。

実質的には尖閣諸島の棚上げを提案したと言ってよい。

 

(参考文献)

 

f:id:syounantheo:20190725230725j:plain

 

No.729(2019.7.23)イラン情勢に関して:自衛隊と有志連合

f:id:syounantheo:20190716110109j:plain

f:id:syounantheo:20190716110112j:plain

 

安倍自民党政権の大きな特徴の一つは、法解釈を捻じ曲げること。法の論理を無視すること。既成事実で無法状態を創り出すことにある。

法の原点である憲法解釈は、なし崩しと詭弁で何とでも運用できる。

ならず者国家” の横行。

イラン情勢についての、半田滋さんの論文。少し長いですが、説得力があると考えます。

(注1)半田滋 氏: 1955年生まれ。東京新聞論説兼編集委員獨協大学非常勤

           講師。法政大学兼任講師。

 (注2)下記論説の出所は、下記ですが、うまくリンクできないかもしれません。     

file:///C:/Users/%E9%AB%98%E7%94%B0%E5%81%A5/Desktop/Microsoft%20Excel%202010.lnk

 (注3)画像は当方が挿入。

自衛隊が有志連合に参加したら、攻撃に「全力で反撃できない」可能性 

         当てはまる法律がないから…半田 滋

f:id:syounantheo:20190716110119j:plain

 トランプ米政権が中東のホルムズ海峡などの安全確保のため、有志連合の結成をめざすと表明したことを受けて、日本政府は海上自衛隊護衛艦派遣の検討を始めた。 

 派遣の根拠法令として、自衛隊法の「海上警備行動」の適用が有力視されるが、そもそも沿岸警備を想定した海警行動の武器使用には制約がある。 

 かといって、参院選挙を控え、臨時国会を招集して新法制定を目指すのは非現実的だ。見切り発車で海上警備行動による派遣を強行すれば、法の拡大解釈と現場の自衛官への責任転嫁になりかねない。

 

日本が抱えるジレンマ 

 米国のダンフォード統合参謀本部議長は9日、ホルムズ海峡などを航行するタンカーなどの護衛のため有志連合に加わる同盟国を、2週間程度で決定したいとの考えを示した。ダンフォード氏は「関係国と直接連絡する」と話しており、日本政府にも参加の働きかけがあったもようだ。 

 これに対し、野上浩太郎官房副長官は11日の記者会見で「イラン情勢について米国と緊密にやりとりしているところだ」と情報交換していることを認め、6月に起きた日本の海運会社が所有する外国船籍のタンカーへの攻撃について、「わが国の平和と安全を脅かす重大な出来事」との認識を示した。 

 山崎幸二統合幕僚長も同日の記者会見で「米国から参加の打診があったのか」との問いに「日米間でさまざまなやり取りをしているのは事実だ。関係国と連携してしっかり対処していきたい」と踏み込んだ。 

 タンカー襲撃事件の発生直後、政府の態度は今とは違った。 

 菅義偉官房長官は「背景を含めて予断を持って答えることは控えたい」と話し、岩屋毅防衛相も「現時点では自衛隊へのニーズは確認されておらず、部隊を派遣する考えはない」と慎重な姿勢を示していた。 

つまり、トランプ大統領のご機嫌は損ないたくないが、日本と友好関係にあるイランを刺激するのも得策ではない、というジレンマを抱えていたのだ。

f:id:syounantheo:20190716110116j:plain

 

 それが米国による有志連合の結成表明を受けて、一転して自衛隊派遣の検討を始めたことをうかがわせる言葉に変わったイランと天秤に掛けていた米国への傾斜がぐっと強まったといえる。 

 

 適用できる法律がない

  政府にとっての難問は、民間船舶を護衛するのにぴたりと当てはまる法律がないことだ。 

 安倍晋三政権が制定した安全保障関連法のうち、「集団的自衛権の行使」や「他国軍の後方支援」を名目にして自衛隊を派遣するには、日本と密接な関係にある国が攻撃を受けている必要があるが、現状では戦闘は起きていない。

  ソマリア沖の海賊に対処するために制定された海賊対処法は、海賊にしか対処できず、例えば、相手がイラン軍やイラン革命防衛隊といった「国もしくは国に準じる組織」だった場合には対処できないことになる。 

 最後に残るのが、自衛隊法の海上警備行動だ。海上警備行動は、国内で警察権を行使する海上保安庁の対応能力を超えていると判断した場合に限定して発令される。本来は領海や内水など国内における活動を前提としている。 

 岩屋防衛相が「自衛隊へのニーズは確認されていない」と言い切った、政府にとっての不都合は残るものの、タンカー襲撃事件を名分として海上警備行動を発令できないのだろうか。 

 政府は安全保障関連法を議論していた2015年5月、平時でも有事でもない、いわゆるグレーゾーン事態で、自衛隊を治安出動や海上警備行動で出動させるための「発令手続の迅速化」の3項目を閣議決定している。 

 3項目の中には「公海上でわが国の民間船舶に対し、侵害行為を行う外国船舶を自衛隊の船舶などが認知した場合における対処」があり、タンカー襲撃事件で海上警備行動を発令できるようにみえる。 

 ところが、内閣官房副長官補(事態対処・危機管理担当)付(いわゆる事態室)の担当者は「タンカー襲撃事件は3つの点で海上警備行動の発令にあてはまらない。まず『自衛隊が侵害行為を認知した』に該当しない、次に被害にあったのが『わが国の民間船舶』ではない、最後に侵害行為の主体が『外国船舶』かはっきりしない」と断言する。

 6月のタンカー襲撃事件の後に米軍が公開した、

 イラン艦艇とみられる船がタンカーの機雷を除去した際のものとされる写真

f:id:syounantheo:20190716110122j:plain

 

 「では、護衛艦は派遣できないのか」と質問すると「所掌ではないのでお答えできない」との回答。何のことはない、最後は政治判断というのだ。 

 首相官邸はタンカー襲撃事件について、「予断を持たない」から「わが国の平和と安全を脅かす重大な出来事」へと評価を変えている。海上警備行動の発令は案外近いのかも知れない。

 

武器は使えるのか? 

 ホルムズ海峡はイランとオマーンの飛び地に挟まれた海峡で、もっとも狭い部分は約33kmしかない。海峡のオマーン側に艦船が自由に通行できる国際海峡が設けられている。 

 ホルムズ海峡を含むペルシャ湾中南部には2004年から、治安維持を担う多国籍軍「合同任務部隊(CTF)152」が置かれ、米国主導のもと、英国や湾岸諸国の海軍が艦艇を派遣している。 

 自衛隊を派遣するとすれば、このCTF152への参加が有力視される。日本はソマリア沖の海賊対処をめぐる多国籍軍「CTF151」に参加し、護衛艦と哨戒機を送り込んでいるほか、海上自衛隊将官が指揮官ポストに着くこともあり、その点での抵抗はない。 

 海上警備行動の根拠は自衛隊法82条である。あくまで警備なので、武器使用基準のハードルは高い。警察官職務執行法7条が準用され、必要な場合は威嚇射撃までは認められるが、相手に危害を与える射撃ができるのは、正当防衛(刑法36条)か緊急避難(同37条)の場合に限定される。 

 相手が軍艦や公船だった場合は、さらに武器使用が困難になる。政府は「国際法上、外国軍艦、公船はわが国の領海においてもわが国の管轄権が及ばないので、海上警備行動であっても武器使用できない」(2015年7月29日参院安保法制特別委、中谷元防衛相)との見解を示している。 

 国際法上、外国軍艦や公船に対して管轄権を行使できるのは旗国(軍艦や公船の所属する国)のみに限られており、こうした艦船には日本の国内法は及ばないからだ。

米艦船と航行するイージス護衛艦「あしがら」

 

f:id:syounantheo:20190716110125j:plain

f:id:syounantheo:20190716110130j:plain

 

 その一方で「これらの艦船が不法に発砲や体当たりなどを行い、わが国船舶に危害を及ぼす場合には、海上警備行動により合理的と判断される範囲で武器使用できる」(同)との見解も示している。 

 中谷氏は「領海において」、日本船舶への侵害行為があった場合に限定して武器使用が可能と答弁しているわけだが、「公海において」や「国際海峡において」を前提にした政府見解は「見あたらない」(防衛省運用政策課)のだ。

 

相手が反撃してきたら… 

 公海などにおける武器使用をめぐる政府見解がないのは、繰り返すが海上警備行動は沿岸警備を大前提にしているからである。 

 過去に海上警備行動が発令されたのは、能登半島沖の不審船事件(1999年)、中国の漢級潜水艦領海侵犯事件(2004年)、ソマリア沖の海賊対処(2009年)の3件で、先行した2件はどちらも領海内で発動された。 

 不審船事件では、護衛艦が不審船を停船させようと威嚇射撃したが、不審船は日本の漁船を装っており、外国軍艦や公船ではなかった。領海侵犯事件では国連海洋法条約に従って、海上自衛隊が潜水艦を浮上させようと音響ソナーを海中に投下したが、武器は使用していない。 

 領海内における海上警備行動でさえ、慎重な武器使用が求められるのだ。そんな武器使用基準のまま、ホルムズ海峡に派遣される自衛隊を待ち構えるのは、イラン軍であり、イラン革命防衛隊である。 

 ペルシャ湾で10日、イラン革命防衛隊の武装ボート5隻が英国の石油タンカーの航路を妨害した。タンカーの護衛に当たっていた英海軍のフリゲート艦が機銃を向けて口頭でも警告したところ、イラン艇は引き下がったという。 

 英国のフリゲート艦の行動を、海上警備行動で出動した日本の護衛艦に置き換えてみよう。民間船舶に対する単なる航路妨害を、武器使用が可能な侵害行為とみなすのは無理がある。 

 今回の英海軍がやったように、自衛隊がイラン艇に武器を向けて引き下がればよいが、引き下がらない場合、自衛隊はどうするのか。海上警備行動を拡大解釈して威嚇射撃、船体射撃、危害射撃と段階的に武器使用を強めるのだろうか。 

 相手が反撃してきて、本格的な戦闘に突入するとすれば、日本政府は防衛出動で対処せざるを得なくなるだろう。民間船舶の護衛が戦争に発展するようでは、得られるものと失うものとの軽重が違い過ぎてバランスを欠くことになる。 

 海上警備行動は防衛相が首相の承認を得て命じることができ、国会の関与は不要だ。首相やその側近だけで、ホルムズ海峡への派遣の是非を決めるとすれば、極めて危うい。 

 有志連合への参加はかえって中東の緊張を高めるおそれがある。もとはと言えば、トランプ大統領が一方的に核合意を破棄したことから米国とイランとの対立が再燃した。

  そのトランプ氏は、来年の大統領選へ向けてアピールしようと場当たり的な政策を次々に表明。そんな政治的思惑に乗せられること自体が日本の安全保障の危機である。

 

No.728(2019.7.17)ニューヨークタイムズ紙と日本の新聞:比較

f:id:syounantheo:20190712213149j:plain

NHK・BS1: BS世界のドキュメンタリー選「NYタイムズの100日間」

というドキュメンタリーを観た。

「トランプ政権との闘い」をテーマにしており、よくぞここまで舞台裏をそのまま実物で再現したなという、大きな発見のある刺激的な番組だった!

(概略はこう・・・)三権の監視役たる「第四の権力」と呼ばれるメディア。その代表格NYタイムズ紙をトランプ大統領は“フェイクニュース”“大衆の敵”と敵視する。就任演説に始まる100日間に密着した話題作を前後編で放送。前編は、特ダネ連発のエース記者に加えて“トランプ番”のベテラン女性記者を中途採用するなど政権を揺さぶり続ける“記者魂”を描く。ライバル紙に出し抜かれた後、ワシントン支局長や本社トップの編集長はどう動く?

 

何故ここまで、日本のマスコミと違って、権力と直接対峙できるか?と唸ってしまう。

例の、『東京新聞』記者:望月衣塑子氏の、菅官房長官に対する追求と比較してしまうが、それすらも比ではないものだった。

 

f:id:syounantheo:20190712213145j:plain

 一方、下記に、孫埼享氏のエッセ-で、それとは別に、同様の書き込みをされていたので、ポイントを紹介してみたい。

 

 

事実関係1:朝日新聞「「日本、独裁政権のよう」ニューヨーク・タイムズが批判」

・ 米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は(7月)5日、菅義偉官房長官が記者会見で東京新聞記者の質問に対する回答を拒むなど、そのメディア対応を指摘したうえで、「日本は憲法報道の自由が記された現代的民主国家だ。それでも日本政府はときに独裁政権をほうふつとさせる振る舞いをしている」と批判した。

 ・ 同紙は、菅氏が会見で東京新聞記者の質問に「あなたに答える必要はありません」と述べたエピソードなどを紹介。菅氏ら日本政府に対するマスコミ関係者らの抗議集会が3月に開かれ、参加した600人が「Fight for truth(真実のためにたたかえ)」と訴えたことも伝えた。 

・ 一方で、同紙は日本政府の記者会見をめぐる振る舞いの背景には「記者クラブ」の存在があると指摘。「記者らはクラブから締め出されたり、情報にアクセスする特権を失ったりすることを恐れ、当局者と対立することを避けがちになる」との見方を示した。 

・ 日本政府のメディア対応をめぐり、海外の視線は厳しくなっている。言論と表現の自由に関する国連の特別報告者デービッド・ケイ氏は6月、日本メディアは政府当局者の圧力にさらされ、独立性に懸念が残るとの報告書をまとめている。

 

事実関係2:共同の報道:米紙、東京新聞記者は「国民的英雄のような存在」

・ 米紙ニューヨーク・タイムズ電子版は5日、東京新聞の望月衣塑子記者を紹介する記事を掲載した。菅義偉官房長官らに対して多くの質問を繰り出すことで、日本の報道の自由にとって「国民的英雄のような存在」になっていると指摘した。

 ・ 背景として、日本政府は一部の記者を会見から排除するなど「独裁政権のような振る舞い」をすることがあると批判。日本には多くの記者クラブがあり、所属する記者たちは情報を得られなくなることを恐れ、当局者との対立を避ける傾向があるとの見方も紹介した。 

・ 望月記者については、会見で菅官房長官が「あなたに答える必要はない」と発言するなど、多くの質問で「政治家や官僚をいら立たせる」と指摘。一方、望月記者を支持するデモが行われたり、望月記者をモデルにした映画ができたりしたことも説明した。

 ・ 望月記者はニューヨーク・タイムズ紙に「権力の座にある人々を監視すること」が自分の使命であり、政府は「常に情報を隠そうとする。それを掘り起こさなければならない」と強調した。(共同)

事実関係3 『時事通信

 ・ 米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は5日、日本政府が会見で記者の質問を制限したり、記者クラブに加盟していないジャーナリストの出席を拒んだりしているとして、「日本は報道の自由憲法に記された現代の民主国家だが、時には独裁政権のように振る舞っている」と批判した。 

NYタイムズ紙記者、菅氏に質問=「記者会申し入れの意図は」 

 記事は、菅義偉官房長官が定例会見で質問を繰り返し物議を醸してきた東京新聞の女性記者に、「あなたに答える必要はない」と回答を拒んだことなどを紹介。情報が取得できなくなることを恐れ、多くの記者が当局との対立を避ける中、「日本の報道の自由にとって彼女は庶民の英雄になっている」と指摘した。 

 その上で、記者クラブ制度について「地方の警察署から首相官邸に至るまで、あらゆる組織に存在する」と説明。「多くの記者の調査意欲をそぎ、国民が政治について知ることを妨げている」などとする識者らの声を伝えた。

 

・ 海外の特派員は5、6年前から安倍政権のメディアへの圧力や記者クラブの政府との癒着などの日本メディア問題をずっと報道してきたのに、どうして今になって日本メディアがようやく海外メディアのその批判を報道しているようになったのか? 

20年間同じ記事の通用する日本のメディアの後進性。

 

No.727(2019.7.13)若者の自民支持率なぜ高い?(その2)

      

       f:id:syounantheo:20190707100814j:plain

                                      

                        f:id:syounantheo:20190709083314j:plain

 

若者の声の一端から。

・「安倍晋三首相がG20でどんな成果を出したかよく解らないし、イランに行って何か効果があったかも見えない。ただ、頑張ってる印象はありますね。」

千葉大のキャンパスで、那覇市出身の三年の男子学生(20)はこう話したそうだ。2017年の衆院選は自民候補に投票し、今も自民を支持する。

それなのに、安倍政権や自民の政策には「積極的に評価しない」という。

特に、沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設問題では、安倍首相らが県民投票の結果に向き合わない姿勢に対し、不信感が強い。

それでも自民を支持するのは、過去に民主党政権で米軍基地を沖縄県外に沖縄県外に移せなかった記憶が強く残っているからだという。

政権交代して政治は変わるんでしょうか。大事な問題って自民も野党も変えられないのではないか」 自分も含めて「とりあえず現状維持で自民支持」が少なくないと感じているそうだ。「今は新卒の就職率も悪くはないし、自民が与党を続けるのが現実的と思う。」

・17年衆院選での共同通信出口調査によると、一八、十九歳の自民支持率は39.9%、二十代は40.6%で、全年齢層の36%を上回った。ただ投票率は二十代が33.9%で、全年齢層の53.7よりかなり低い。

「とりあえず現状維持で自民支持」「今は新卒の就職率も悪くはないし、自民が与党を続けるのが現実的と思う」という意見が多いのではないだろうか

・また、「同世代に自民を支持する人も結構いる、物心ついて自民が政権与党だった時代が長く、政治を変えようと思わない人が少なくない」という考えも根深いようだ。

・周囲には、自民を支持していなくても野党への共感が薄い学生も多いようだ。高校でも大学でも『批判する人はダメな人』という風潮は強い強く、国会で野党が自民を追及しても、それだけでは支持は広がらないのではないか。

・国会で老後資金「二千万円不足」報告書を巡り年金制度が議論されたことには「将来に不安はあるが、どの政党を支持すれば解決できるのか、迷う」

・今回の参院選でも、どの政党を支持するかは決めかねている、というのが多いのではないか。

・そもそも、政治を身近に感じる場面が少なく、選挙で「聞いたことがある」程度の印象でも、自民に投票する人は少なくはないのではないか。

総じて、自民党の戦略が巧妙多岐にわたっているのに対し、立憲野党の長期的展望と戦略(ストラテジー)が希薄なところにも大きな要因と責任があると考える。

単なる批判勢力に甘んじている現状が打破されないと、展望は見えてこない

                                         

                            f:id:syounantheo:20190709083317j:plain