湘南Theoの平和のページ・ブログ

戦争と、貧困・抑圧・差別の構造的暴力がない社会実現のために!

No.705(2019.6.3)上野千鶴子 氏 「東大生も追いつめる自己責任の罠」

(『東洋経済 オンライン・ニュース』2019.6.2 より、ポイントを紹介)

子どもたちはいったいなぜ壊れ始めたのか

 

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 東大入学式の祝辞で、日本中に女性差別に関する議論を起こした上野千鶴子さん。広範な支持を集めた理由に、#MeToo運動や東京医科大の入試差別があったと上野さんはみる。女性差別についてこれまであまり気づいていなかった人も問題の存在を知り「世論が耕されていた」ことが、幅広い人々による東大祝辞をめぐる議論の背景にあるという。

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一方で何十年も変わらない問題もある。職場や家庭、社会における女性の地位は、どのくらい変わったのか。変えた要因は何か。残る問題は何なのか

 

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(Q)#MeToo運動や東京医科大の入試差別により、世論が耕されたとおっしゃいました。一方、解決していない、変わらない問題もあるかと思います。何が変わって、何が変わっていないのでしょう。

(A)この数十年でタテマエは変わりましたね。

例えば、結婚しない女、産まない女、離婚する女は、昔も今もいますが、彼女たちに対するスティグマ(社会的烙印)は払拭されてきた。それに、結婚した女が働くことは当たり前になりましたが、かつては外聞が悪いことでした。夫が十分に稼ぐことができない証拠と見られたからです。

フェニミズムがタテマエを変えてきた

それに、今では子どもがいる女性が働くことも、当たり前になりました。確かに陰でいろいろ言う人がいるかもしれませんが、公共の場で結婚した女、子どもを持つ女が働くことを非難する声は減ったし、非難すればその人が批判を受けます。

社会変革とは、タテマエが変わることを意味します。人間の劣情やホンネは変えられません。でも最低限、公共の場で性差別的な言動をしたらアウトだよ、というタテマエが共有されてきました。それを変えてきたのが、フェミニズムです。

 

■上野語録1:夫や子どもより、自分のほうが大事な女性

日本の女性が非常に変わったところは、自分の利益のほうを夫や子どもの利益よりも優先するようになったこと。私はそれをフェミニズムの影響とは夢にも思いません。少子化の影響が大きいですね。(以下略)『家族を容れるハコ 家族を超えるハコ』

 

(Q)タテマエのレベルでは社会が変わったとして、個人はどうでしょうか。

(A)私は、女は変わったと思います。一方で、男はあまり変わっていないように見えます。

タテマエの男女平等は何によってもたらされたと思いますか? 親からです。そして親を変えたものは何かと言ったら、少子化です。

かつて、家父長制が根強い時代には「末っ子長男」が多かった。跡継ぎとして男の子を望んで、男の子が生まれるまで子どもを作り続けたからです。今では状況は一変しました。データによれば娘が1人または姉妹のみの世帯は子どものいる世帯の4割に上ります。こうなると、息子だけを優遇することは、もはやできません。だって息子を持たない家族が多くなっていますから。

少子化で、ますます子ども中心になった日本の家庭で、娘にも教育を受けさせ、能力を伸ばすよう期待する傾向が増えてきた、と感じます。

ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんが3月に来日しましたが、彼女のお父さんがすばらしい発言をなさいました。「娘の翼を折らないように育てた」と。

かつて、女の美徳は夫と子どもの利益を自己利益より優先するところにあるとされました。今やそういう美徳は通用しません。専業主婦を希望する女性ですら、夫や子どもの利益を自己利益より優先しようと思って選んでいるわけではありません。夫は最初から自己利益のほうを優先していますから、当然、夫とも衝突が起きます。

妻と夫との間で、対等な葛藤が生じてはじめて、がっぷり四つに組んだまともなカップルが生まれるのではないでしょうか。日本の夫婦が「波風立たない」でいられるのは、妻が不平不満を呑み込んでいるからこそです。

 

ネオリベラリズムによってかえって生きづらくなった

■上野語録2:心が折れない理由

(Q)少子化によって女性の解放が進んだとすれば、近年の変化はフェミニズムの観点からは肯定的に評価できますか。

(A)功罪両方ですね、困った変化も起きています。少子化は数十年かけて進んできた変化ですが、同じ時期に浸透したネオリベラリズム新自由主義)は人々を生きづらくしています。ネオリベラリズムは競争と自己決定・自己責任を強調するところに特徴があります。

ひらたく言えば、お金持ちほど「自分が頑張ったから今の地位を得た」と思いやすいということです。それに加えて、階層が低い人の間でも、自分の現状は自己責任であることに同意する人が少なくありません。 

つまり、社会的経済的に困難な状況にある人が「それは自分が招いた結果だ」と考えて助けを求められないことにつながります。

かつて、社会にうまくなじめない若者といえば、非行少年になるなど、外に向けてエネルギーを発散する傾向がありました。他方、自分で自分を傷つける若者たちは、攻撃性を内に向けてしまいます。学生の変化を見ていて「子どもが壊れ始めている」と、愕然としたことを覚えています。

(Q)2000年代、上野先生は東大で教えていました。今お話のあった「壊れ始めている子ども」は東大生のことでしょうか。

(A)そうです。東大は、もともと学生の自殺率が高いなど、メンタル的に問題の多い大学でしたが、ここ数十年の自傷系の学生の増加は、例外と言えないほどに大きいと感じます。東大生は、偏差値が高いだけの普通の子どもたち。特殊ではありません。

中学・高校の先生方に聞いても同じ、その子どもたちが数年後に大学に入ってくるのですから。先ほど話した自己責任の原理によって、彼/彼女たちは「自分は頑張って東大に入った」と思っています。そして「次も頑張って勝たなくてはいけない」と思っています。競争は1度では終わらないのです。

勉強以外の多様な世界のことを知ったほうがいい

けれども、就職活動は受験勉強のように点数だけでは勝負が決まりません。私が教えていた文学部の学生は就職氷河期には東大生であっても苦労をしています。入社試験のペーパーテストはクリアしても、面接で落とされる。本人はなぜ落とされたのか理解できず、人格否定と受け止めます。そして「自分には価値がない」「生きている意味がない」に短絡する傾向があります。

どれほど経歴が立派でも、一生勝ち続けることはできません。挫折体験がなかったり、価値多元的でなかったりすると、心が折れやすくなります。勉強の出来不出来とは異なる価値基準を持った多様な世界があることを、子どもたちには早めに体験させたほうがいいと思います。

 

■上野語録3:父親から愛された自信

父親にわけもなく愛された経験は、男にきっと愛されるというわけもない自信をわたしに与えた。もちろん、これは根拠のない自信である。この期待は現実によって何度も裏切られたけれども、それでもこりずに男に期待することにおじけづかないという、基本的な楽天性をわたしに与えた。 『ミッドナイト・コール』

(Q)ご自身のお父様に「愛された」と書かれています。父娘仲良しだったのでしょうか。

(A)父親には愛されましたが、「愛してくれたオヤジを尊敬しなかったイヤな娘」です(笑)。

男兄弟の間に挟まれ、兄とは年が離れていたので、私は文字どおり父親からはネコかわいがりされました。息子には厳しく、娘には甘い父親だった。ただし、その愛情はペットに対するような愛でした。息子たちにはかけた期待を娘の私にはかけなかった。 

今でも覚えているのは、お正月に父が「お兄ちゃんは何になる? 〇〇になったらいい。社会の役に立つから」と言いました。弟にも同じように話をしましたが、私の順番は飛ばされた。

それで自分から「チコちゃんは?」と尋ねると、「あ、そこにいたの」という顔をして、「チコちゃんはかわいいお嫁さんになるんだよ」と。そうか、兄や弟のようには期待されていないのか、とショックでした。

だから反対に何をやっても許された。父にとっては理解できない社会学をやりたいと言っても、反対されなかった。期待はされない代わりに、好きなようにさせてくれた、という意味で、感謝しています。私は「翼を折られる」女としての社会化に失敗して今がある、と思っています(笑)。

 

日本の企業と男性が変わらなければならない

(Q)話を現代に戻すと、今や世帯数では共働きが片働きを上回るようになりました。

(A)男性はあまり変わっていない、とお話しましたが、学生を見ていると変化を感じます。多くの男子学生は「妻に働いてほしい」と思っています。自分1人の収入で妻子を養うのは容易ではなく、自分と同じ学歴の妻が働いたら2倍豊かな生活ができることを体感的に知っているからです。

家事・育児などについても男性の意識が変わってきたことは感じます。今では、夫が家事を「手伝う」「協力する」は禁句ですからね。妻が容赦しません。

ただ、彼らが望むように家庭に関われるかどうかは、働き方の問題です。最終的には日本の企業と男性が変わらなければならないでしょう。

 

 

No.704(2019.6.2)ドイツのエネルギー政策に学ぼう。

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         (首都ベルリン近郊に並ぶ風力発電

 

今回も、『東京新聞』記事より引用紹介 2019.5.31付 (要約)

 

原発のない国へ>

 「エネルギーシフト(転換)の世界的推進のために」

                   

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ドイツは国内の原発を二〇二二年までに全廃する方針。 一方で、既に発電量の40%(日本は17%)に達している再エネについて「今や最も重要な電源となっている」「この比率を一層高める」。エネルギー転換と国際競争力維持の両立をはかり、経済成長を目指す。

再エネの拡大には「電力網の拡充の推進」が急務。ドイツでは風力発電所の大部分が北部に集中する一方、電力の需要は工業地帯の南部で多く、両地域を結ぶ送電網の整備が「焦眉の急」。さらに今後は電気自動車の拡大などで送電網不足が生じる可能性があり、「二一年までに数百キロに及ぶ新規送電網建設に着手する」との方針。

天候によって発電量が増減する再エネが拡大すれば電力供給量の変動も大きくなる。このため変動を調整する蓄電池やスマートグリッド(次世代送電網)の重要性が「一層高まっていく」。    

ドイツは発電量に占める原発の割合を二〇一八年現在の13・3%から二二年末までにゼロにする。石炭火力も三八年末までに全廃。脱石炭に向け、炭鉱閉鎖など痛みを伴う政策にも取り組む。一方、再エネは40・4%(昨年)まで伸び、政府は三〇年までに65%に引き上げる方針。ドイツはエネルギー転換を経済成長と両立させており、風力発電の技術は今や有望産業。

これに対し日本政府は「温暖化対策には原発が不可欠」とし、石炭も使い続ける。米国などで開発中の小型原発の活用も視野に入れ、原発や石炭の復活を図る米トランプ政権と歩調を合わせる。だが原発は数万年もの保管が必要な「核のごみ」を排出し、将来世代にツケを残す。持続可能なエネルギーとはいい難い。

 それでも原発に依存し、使い続けるのか-。ドイツの呼びかけは国としてのあり方までも含めた重い「問い」を日本に突きつけている。         

緑の野原に見渡す限り巨大な風車が立ち並ぶ。首都ベルリンでは、都心から少し車を走らせただけでこんな風景が飛び込んでくる。家々の三角屋根にも太陽光パネルがあるのは当たり前。再エネはすっかり人々の暮らしの一部。

「再エネ発電所の接続を断る権限はありません」。独テネット社 テネットは自前の発電所を持たない。送電線だけを持ち、他社の発電所でつくられた電気を家庭や企業に送る「送電会社」。ドイツでは四つの同様の会社が送電網を運営する

大手電力会社が送電網も運営する日本ではなじみのない形だが、「送電網中立」のこの仕組みこそが、実は「再エネ拡大の原動力」。

日本では大手電力は自社の原発や火力発電所稼働率を高めた方がもうかるため自前の発電所の送電を優先しがち。再エネ発電所の接続要請は「電線に余裕がない」と断る例が相次ぐ。ドイツでは「大手の発電所だけが優先される事態は起こりえない」。

テネットも元は大手電力会社の送電部門だった。〇九年に欧州連合(EU)が大手による独占を排し、参入を自由化するため送電の分離を各国に義務付け。これを受け、親会社からオランダの送電会社に売却され、独テネットが生まれた。

 ドイツは〇〇年から「再エネ最優先」も法律で定めた。送電会社には再エネを原発などより優先して接続する義務が課され、電線に余裕がなければ、増強しなければならない。

 一時的に電力供給が需要を超えそうな時も再エネ発電所が出力抑制を求められるのは一番後。日本各地で大手電力により再エネが真っ先に抑制を指示され、補償もないのと対照的

再エネを増やす幾重ものルールの背景には、一九八六年の旧ソ連チェルノブイリ事故をきっかけに脱原発を決めたドイツの強い政治的な意志がある。

 市民も草の根からこれを支持する。七〇年代から続く反原発の流れも相まって、市民が再生エネ発電所に出資する例が拡大。調査会社によると再エネ発電所の出資者別では市民が31・5%と最も多く、企業や銀行を引き離す。

アグリゲーター」(まとめ役)と呼ばれる新興企業も育ってきた。二〇〇九年に創業したネクスト・クラフトベルケは、代表例。数千カ所の再エネ発電所と、電気を使う側の工場や各家庭の間に立ち、精緻な天気予報や需要予測に基づき、各発電所の出力を通信機器で細かく遠隔コントロールする。

 「再エネ発電所はお天気次第で出力が変わるため、調整役が不可欠。発電はもう大手電力の特権ではない。小さな事業者も参入できるようにしてエネルギー転換を進める。

<発電と送電の分離> ドイツでは送電会社4社のうち、テネットなど2社が元の親会社から資本関係も含め完全分離された。ほかの2社は資本関係を残す形で分社化。日本でも法改正に基づき大手電力各社が2020年度から送電部門を分社化予定。東京電力はそれに先駆け16年に分社化。だが、日本では、送電部門が同じグループ傘下に子会社として入り完全分離といえない状態が続く。

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No.703(2019.6.1)地球平和憲章

先日、「世界連邦」の提唱について紹介しました。

No.696(2019.5.25) 

https://blog.hatena.ne.jp/syounantheo/syounantheo.hatenablog.com/edit?entry=17680117127154202105

 

 今回も、知らなかったのですが、次のような提唱が行われており、いずれも(ユートピア)と見向きもされないかもしれませんが、日本国憲法(特に第九条)の精神に直結する呼びかけで、検討するに値すると思いますので紹介します。

 

(『東京新聞』2019.5.30記事より)

「地球平和憲章」広がれ 市民団体が草案 

        非戦・非武装・非核・非暴力を追求

 

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 戦争放棄や戦力不保持をうたう憲法九条の理念を、世界に発信する市民グループ「9条地球憲章の会」が、九条の理念を反映させた「地球平和憲章」の草案をまとめた。「非戦、非武装、非核、非暴力」という理念に基づき、各国の軍隊を人道的な組織に再編することなどが柱。各国の市民にも同様の憲章づくりを呼び掛け、ゆくゆくは九条の理念に沿った国連憲章改正も夢に描いている。 

 

(追記 注 : 「9条地球憲章の会」 ウェブサイトは、        

https://blog.hatena.ne.jp/syounantheo/syounantheo.hatenablog.com/edit?entry=17680117127154202105

  

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 同会は、憲法施行から七十年となる二〇一七年の三月、平和教育を専門とする堀尾輝久・東大名誉教授ら国内外の有識者、市民が発足させた。世界から戦争をなくすための憲章を、九条をモデルに、市民の手でつくることを目指した。日本を含む十七カ国の千人超が賛同者に名を連ねる。

 シンポジウムを開催するなど、国内外の有識者や市民から意見を聴き、二年以上をかけてまとめた草案はA4判、十九ページ。世界から戦争をなくすことは「人類最大の夢」とし、「あらゆる戦争を放棄し、あらゆる戦力も持たない九条は徹底的平和主義に立脚する」と高く評価している。

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 内戦や対テロを含むすべての戦争を「絶対悪」と定義。「軍隊廃止は、あらゆる名目の戦争を防止する上で最良の方策」とした上で、各国の軍隊から「軍事的な部分」をなくし、災害支援や復興支援のための組織とするよう求める。他国を武力で守る集団的自衛権は認めないとした。

 人類は、核兵器原発とは共存できないとも強調。非暴力で物事を解決する日本国憲法の思想を発展させるよう訴えている。

 先に東京都内で開いた総会で寄せられた意見に基づいて草案を修正し、同会の地球平和憲章として完成させる。英語などに翻訳し、ホームページに掲載する予定だ。

 堀尾さんらは、各国の賛同者にも、九条の理念を反映した地球平和憲章をつくってもらいたい考え。世界共通版の憲章もまとめた上で、各国の市民がそれぞれの政府に働き掛けて国連での採択を目指すことや、国連憲章の改正につなげることも期待する。現行の国連憲章は武力の保持や、集団的自衛権を認めている。

 堀尾さんは「九条は私たちの誓いであり、世界にとっても宝。各国の市民が学び合い、この精神を生かした憲章をまとめてほしい」と話している。

 

国連憲章> 第2次世界大戦直後の1945年10月に発足した国連の基本事項を定めた条約で、前文と111条で構成。国連の目的や原則、総会や安全保障理事会の構成や任務、権限などを定める。平和的手段による紛争解決を掲げるが、安保理が平和への脅威や侵略行為を認めた場合、武力行使を含む強制措置を取ることができる。ある国が武力攻撃を受けた際、密接な関係にある国が反撃する集団的自衛権の行使も容認する。憲章改正には安保理常任理事国5カ国が拒否権を持つ。

 

No.702(2019.5.31)「ピースおおさか」の戦争展示に関する文書非公開に最高裁判決、勝利!!

 先日5月24日の最高裁小法廷で、「大阪維新」が支配する大阪府・市に対して、戦争・平和に関する大阪の展示施設の ”加害”  の面を全面撤去されている問題で、「戦争責任問題は、市民が広く議論できる条件・環境が保障されねばならないという趣旨で、情報公開するべきだった」という論旨で、府と市が全面的に敗訴・決定しました!

  「大阪維新」が支配する大阪府大阪市が全面的に敗訴したのは画期的な最終判決でした。

 とりわけ、歴史認識に関する公論の場こそ、情報公開すべきであるという最終判決の持つ意味は大きい。

 「維新」の政治が揺らぐほどのインパクトがある判例です。

 

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      (今回の最高裁判決の前裁判(大阪高裁)での勝訴の模様)

 

 一方で、私たちは過去の歴史をどれだけ直視しているでしょうか?

代表事例が、「徴用工」問題、日本軍「慰安婦」問題に代表されるように、過去の戦争と植民地支配をめぐる「歴史認識」の隔たりがその根底にあります。 

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 2013年、「ピースおおさかは、これまで展示していたほとんどの加害展示を当時の橋本徹大阪府知事松井一郎大阪市長(両:維新の会)によって撤去され、被害についても真正面から受け止めるのではなく、差しさわりのないものに差し替えられました。

 現在「ピースおおさか」を訪れる見学者(特に子どもたち)は、侵略戦争における残虐な加害の歴史も、また侵略戦争にかり出された日本の人たちが遭遇した不条理な被害の歴史も知らされないまま、誤った「歴史認識」を植え付けられています

 私たちは、被害者であったと同時に、一面は加害者でもあった事実から目を背けてはならないと思います。これは、(自虐史観)などというものではなく、戦争があってはならないという共通の叫びだと思います。

 いまほどアジアから「歴史認識」を問われているときはないというのに、新聞やニュースを見ても、教科書を読んでも、アジアからの問いはほとんど載っていません。

 わたしたちはアジアから問われている本当の「歴史認識」を市民の手で取り戻し、次世代に、”不戦と平和” の道しるべとなる全国各地にもある平和資料の館を、書き換えることなく史実に添って保存する責任があると思います。

 過去の対外戦争によりアジア諸国の人々に多大な損害と苦痛を与えたことなどの厳粛な加害事実を相対化し、被害当事者を辱めるようなことがあってはなりませんし、戦争放棄憲法の精神を否定する展示とならない明確な措置が取られなければなりません。

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先ず、「ピースおおさか」についての運動を継続している、

"設置理念に則ったピースおおさかを取り戻す会"

のウェブサイトは下記です。

http://regainpeace.blog.fc2.com/ 

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 『大阪日日新聞』は、5月28付で、今回の最高裁判決を次のように伝えています。その要旨です。

(全国紙は勿論、自分の知る限り、主要リベラル地方紙も報道していません。)

(画像は、当方で追加したものです。新聞報道も要点を抜き書きしてあります。)

                

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戦争博物館「ピースおおさか」(大阪市)(現:大阪国際平和センター)が旧日本軍による加害行為の資料を展示から外した経緯を記載した文書を改装前に公開せず、知る権利を侵害されたとして、三重県の竹本昇さん他が大阪府大阪市に損害賠償を求めた二件の訴訟で、最高裁第3小法廷は、大阪府大阪市の上告を退ける決定をした。最初の大阪地裁での敗訴を否定した、二審の大阪高裁による、10万円の賠償を是認し、提訴当方の勝訴を命じた。

 ((注)本来は、資料の不当撤去自体を訴えるのが主旨だけれども、裁判闘争上、上記の賠償請求で臨んだものだと思います。)

    

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          (2015のリニューアルを伝えた、新聞記事)

 「ピースおおさか」は、大阪大空襲の展示のほか、旧日本軍の加害行為とされる内容も展示していた。

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 (撤去された加害の歴史展示例1)    (撤去された加害の歴史展示例2) 

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          (撤去された加害の歴史展示例3)

                 

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    (大阪大空襲等の被害ばかり表示物を見せられる学童)

 

  しかし、大阪市長が(当時の)橋下徹 大阪市長松井一郎 大阪府知事の、大阪維新の会の二人に変わった後、展示が「自虐的だ」として見直しの作業が進められ、2015年4月に」全面改装された。

この見直しの過程で、設置理念が骨抜きにされると、当時の「『ピースおおさか』の危機を考える会」の竹本昇さんほかが、関連公文書の情報公開を請求したが、公開を拒否された。竹本さんらの異議申し立てに対し、本来語られるはずの審査会も開かれないまま」改装再オープンされ、記念館の名前まで変えられてしまった

その後、知る権利を侵害され精神的苦痛を受けたとして、大阪府大阪市などを相手に損害賠償を求めて提訴した。

(一審目の)大阪地裁ではすべてを退けられた。

(二審の)大阪高裁は、竹下さんらの主張を認め、一審判決を取り消し、大阪府大阪市に対して5万円の慰謝料を払うよう命ずる逆転判決を言い渡した。

大阪府と大阪市はこれを不服として上告したが今回の最高裁は上告を退ける決定を出した。

これにより大阪府大阪市が情報公開しなかったことは違法とする大阪高裁の判決が確定した、

竹下さんらは、判決勝利後、このように述べている。

 「被害と加害の両面から戦争の実相に迫る、設置理念にのっとった ”ピースおおさか” を取り戻すために展示の改善を求めていく。」

竹下さんらの求めに対し、情報が隠されたことは、すべての市民に情報が隠されたことに等しい。74年前の戦争は、『国民に真実を知らせないこと』を原動力として進められた。同じことを繰り返してはいけない。

                                                             

                                 (了)

No.700(2019.5.29)自衛隊の南西シフトについて

(参考図書)

小西誠:『自衛隊の南西シフト』社会評論社 戦慄の対中国・日米共同作戦の実態  

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(参考)下の地図をご覧ください。

先ず、“ 極東 ”という概念。我々が日々見ている世界地図は、日本が真ん中にあって西にアジア・ヨーロッパ。東にアメリカ大陸。しかし、欧米から見た世界地図は違う。

このようになっている。日本は“極東”、まさに世界の東の果てにあり、落っこちそうな位置にあるようにすら見える。

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一方、中国側から見た日本列島

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米国の「オフショア・コントロール」軍事戦略(後述)では、日本列島~琉球列島弧~台湾~フィリピン~ベトナムを結ぶ線を「第1列島線」とし、ここを海上封鎖すれば、中国からの輸出品を輸送する船舶の航行は封鎖することができる

 

自衛隊の「南西シフト」三つのポイント週刊金曜日5/24号)(No.1233)を読んで。 

 

自衛隊の「南西シフト」

 

★ポイント1「日本を守る」でなく、

       「日本を盾にする」

・小西誠氏(元自衛官の軍事ジャーナリスト)によれば、今年3月から展開が急ピッチで進んでいる、沖縄・宮古島・鹿児島・奄美大島への自衛隊配備

 この配備の根拠となっているのは、米国防衛大学戦略研究センターでの「オフショア・コントロール」という防衛戦略だという。これは、国防費削減を続けなければならない米国が、自国の経費負担を減らしつつアジア太平洋地域への影響力を維持するためのものである、という。

・仮に中国との軍事衝突状態が突発するとしても、米国から遠く離れた地域での「海洋限定戦争」にとどめ、米中全面戦争にエスカレートさせないことを目的にしている。

・ここで、「捨て石」として設定されているのが、米国が「第一列島線」と位置付ける宮古島石垣島など南西諸島という事になる。

日本を防衛するためというよりも、米国の影響力維持のために日本を「盾」にするという戦略だ。

・ではなぜ、2015年に改訂された「日米防衛協力のための指針(ガイドラインがその前提となる配備なのか。それは、この中で、「南西諸島においては自衛隊が主体となり、米軍がその作戦を支援する」という役割分担が明示されているからだ。

 つまり、米国の軍事戦略であるにかかわらず、最前線を担わされるのは日本の自衛隊なのである。

・そして、安倍自民党政権はこの「指針」に従い、自衛隊の「南西シフト」が立案され、先ず2016年に与那国島、2019年に宮古島奄美大島への自衛隊配備が着々と実行に移されている

 

★ポイント2中国の「進出」が先か、

       米日の「威圧」が先か

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・前出の小西誠氏によると以下のように説明されている。「『海峡封鎖』と言うと、中国の中国の軍用船の通過だけを阻止するだけと思われがちだが、『オフショア・コントロール』戦略では、中国から輸出製品を運ぶコンテナ船なども、海洋封鎖の対象となるり、中国の輸出入経済への”妨害”も戦略に織り込まれている」という。

陸上自衛隊研究本部の中澤剛氏(2013年当時、一等陸佐)が『陸戦研究』(陸戦学会)での論文で、次のよう解説している。

・「(オフショアコントロール戦略は)、中国の弱点である輸出依存経済に着目し、いざとなれば遠距離経済封鎖を中国に強制しうる態勢を平素から誇示することで、『中国を現行の国際秩序に従わせる』という目的を達成しようとするものである」。

・言い換えれば、中国の「海洋進出」に米日が「対応」しているのではなく、逆に米日の「威圧」戦略が先行して存在し、それに中国が「対応」する形で軍事増強を進めているという構図。

・(しかし、防衛省はこの点を意図的に隠して「南西シフト」の配備を進めている

・そして、〈即応展開〉のために与那国島石垣島宮古島に配備された「先遣部隊」、(一次展開)のための「即応鼓動連隊」、(二次展開)のための「機動師団・旅団」、(三次展開)のための「増援部隊」という態勢で「南西シフト」は、与那国島から種子島馬毛島まで南西諸島全体で急速に新基地建設が進められている

新しい「防衛大綱」「中期防衛計画」では、南西諸島のいずれかに「島嶼防衛用高速滑空弾部隊・2個高速滑空弾大隊」の配備も盛り込まれている。

 

 (注)新しい「防衛大綱」「中期防衛計画」       f:id:syounantheo:20190526144911j:plain

 

    詳細は、下記の防衛省ウェブサイトを参照ください。

https://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/guideline/index.html

            

 

★ポイント3軍事緊張を常態化し、9条改憲へ誘導する

 

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・前出の小西さんによれば、宮古島奄美大島に配備された陸自の「守備部隊」も、島の住民を守るためのものではなく、ミサイル部隊を守る配備されたものであり、今後大幅に増強されるに違いない。

・さらに、各島の民間空港の「軍事共用」化や港湾の「軍港」化も検討されている。既に複数の防衛省関係者は、南西諸島に対して「不沈空母」という表現で言及している。

軍事緊張の常態化は、9条改憲を目論む安倍政権にとっては実に好都合である。「中国が南西諸島を標的にしている」から「自衛隊なしでは島々を守ることはできない」というキャンペーンを展開し、この地域で意図的に「有事」を創り出すことで、9条改憲への世論誘導に利用している。

自衛隊の「南西シフト」が「日本や島々を守るための態勢ではない」ことを広く共有し、配備に抗うことが、日本国憲法の下、平和な地で暮らす権利を守るために重要な課題となっている

 

                                  (了)

 

 

No.699(2019.5.28)レイバーネット:アーカイブ動画の拡散とアクションへのご参加を!

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(武器取引反対ネットワーク:NAJAT)杉原浩二さんからの呼びかけです

[転送・転載歓迎 です。]

・ レイバーネットTVで 特集「止まらない軍拡日本~幕張メッセで武器見本市」が放映! <アーカイブ動画の拡散とアクションへのご参加を!> https://kosugihara.exblog.jp/239279048/

・ 5月22日、水道橋のスペースたんぽぽで行われた「レイバーネットTV」の 軍拡と武器見本市の特集に、「ママの会@ちば」の金光理恵さん、村田マ ユコさんと共に出演。

 入念な事前準備の甲斐もあって、中身 の濃い放送になったと思います。

・ ちなみにこの日は、以前から呼びかけてきた武器見本市反対のネット署名 に、なんと1日で一挙に7,000人以上の賛同があり、トータルで1万2000人 を超えました。

 ネット署名 <第1次締切:5月末 まだの方はぜひ!

 (☞から) http://chng.it/7KpNry2t

 この勢いをさらに盛り上げて、武器見本市初日【6月17日(月)13時から の大抗議アピール】をはじめとする行動を成功させたいと思います。上記の アーカイブ動画も、森田健作千葉県知事をはじめ、一人でも多くの方に見 てもらいたいです。ぜひ広めてください!  https://kosugihara.exblog.jp/239279048/ 

No.698(2019.5.27)沖縄・玉城知事の「日・米・沖縄3者協議求める」を支持する

 

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  沖縄県玉城デニー知事は5月21日、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に伴う新基地建設に反対するとともに、「政府は期限も交付も予算も明らかにしないまま工事を続けている。当該自治体に説明を行わずに公共工事をすることはあり得ない」と批判の上、「日米、沖縄との協議が現実的に最も早い普天間基地問題の解決策だ」と沖縄県を交えた三者協議を日米両政府に求めた。

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 安倍自民党政権が、辺野古の工事自体が膠着状態で何の展望もない上でただ既成事実として続けられていること、米国の公文書からも「辺野古新基地」の文言すらが消えつつあることで、「辺野古工事」自体に根拠が無くなっている今、この玉城知事提案を全面的に応援する。

 安倍自民党政権にとっても、”渡りに船” ではないか!!

 辺野古が唯一」の呪文に騙されるな

 ★憲法理念に反する!(民意無視、工期・予算も明かさず)

 

※『東京新聞』2019.5.22記事・画像を参考にその要点。 (画像は挿入)

 玉城知事の主な提案発言要旨は下記。              

・自然環境も壊滅的に破壊。

・軟弱地盤が一層明らかになり、予算の膨大化、工事の長期化は不可避。政府は予算も 工期も一切明らかにせず、工事を進めるのみ。

外交・防衛は国の専権事項として、沖縄県民の頭越しに計画を強引に進めることに問題がある。県としては、日米両政府に沖縄を加えた三者による協議の場を要請している。普天間飛行場の一日も早い運用停止と閉鎖・返還に向けては、その協議が一日も早い解決策だ。『辺野古が唯一の解決策』という」政府の呪文に国民がだまされてはならない

異常な事態に国民がしっかり目を向けること一番重要だ。基地問題は民主主義や基本的人権の尊重という憲法としっかりつながった問題。沖縄でこういうやり方が認められてしまったら、日本全国でも同じようなことが繰り返されてしまう。

・東京でのシンポジウムも含め、全国で基地問題を考える取り組みを展開し、沖縄県民の圧倒的多数がなぜ反対しているかを理解してほしい。

公有水面埋立法に基づいて埋め立て承認を撤回したことを主張している。国地方係争処理委員会に審査を申しでている状況なので、撤回の方向性は堅持したい。まったく違法な状態で防衛省は工事を進めており、一日も早く止めて県側と対話をせよと主張していく。

・沖縄防衛局と国土交通相は、内閣の一致した方針に従って普天間飛行場の代替施設建設事業を進める政府機関を担っている。国交相が審査請求の審査を行うことは『自作自演』としか言いようがない。法律をねじ曲げて解釈をしているあしき前例となりかねない異常な事態だ。承認を再撤回するかなど、今後の対応は現段階では検討する時期にない。

・ドローンの飛行禁止区域を在日米軍基地などの上空に広げる改正ドロ-ン規制法が五月に成立した。工事監視のため辺野古上空で報道機関や一般市民が飛ばすと処罰される可能性がある。基地建設の進捗を見せないという政府側の意図は明らかである。

日米安保体制の下で、過重な基地負担を強いられ続けている沖縄の問題は、日本全体の問題で、沖縄一地域の問題ではない。戦後、日本国民が享受してきた、平和に対する信頼感が損なわれる状況にますます近づいてきていると気がついてほしい。

 

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