湘南Theoの平和のページ・ブログ

戦争と、貧困・抑圧・差別の構造的暴力がない社会実現のために!

No.760(2020.3.24)南西諸島の軍備強化:「島嶼防衛戦争」(その2)

南西諸島の軍備強化 「島嶼(とうしょ)防衛戦争」(その2)

《現状認識》

「武器輸出反対ネットワーク」(NAJAT) ほかの皆さんの、全国各地での軍拡に抗する活動レポートから要約。

・(参考)陸上自衛隊のホームページ、https://www.mod.go.jp/gsdf/

・(NAJAT)は、下記で検索できます。

(ブログ)https://najat2016.wordpress.com/ または、武器取引反対ネットワーク(NAJAT)

 

(1)水陸機動団と島嶼防衛戦争 

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2018/3、陸上自衛隊島嶼防衛を主な任務にする水陸機動団が創設された。現在、恒久配備先とされている長崎県佐世保市相浦に団の本部が置かれている。約3千人規模の部隊。

陸上自衛隊のホームページには、「四方を海に囲まれた国土、また数多くの島嶼部を有するわが国の領土を、他国に侵略された際に、海上から迅速に機動展開し奪回することを任務とする」と記されている。

機動団には17機のオスプレイが配備される予定。これに対し、住民や地元の漁協の強い反対で配備の目途は立っていない。水陸機動団は沖縄本島北部にあるキャンプシュワブ、その南側に隣接しているキャンプハンセンにも作られると言われてる。全体としては、佐世保など九州北部に作戦部隊をつくり、沖縄本島辺野古新基地やキャンプシュワブ、キャンプハンセンに作戦を実行する司令部をつくり、そして奄美大島には後方支援のための弾薬庫などをつくり、宮古・石垣・与那国に前線基地をつくっていくという、島嶼防衛戦争と言われるものの構図が出来上がってきている。

これらの自衛隊基地というのは、独立して運用されるのではなく、米軍の指揮下で運用される。自衛隊「防衛大綱」には、米軍と自衛隊は施設・区域の共同使用を拡大していくと明記されている。2027年に、当時の沖縄駐留米軍の最高司令官であったニコルソン四軍調整官が、「全米軍基地は自衛隊と共用する」と発言した。だから、「これは自衛隊基地であって米軍基地ではない」とは言えない。むしろ米軍の指揮下で自衛隊が動かされるという構造を抑えておく必要がある。行政から島民への情報提供がなく、オスプレイが飛び交う状況に、必ずしも基地建設に反対していない一部の島民にさえも戸惑いが広がっているという。

 

(2)軍民混在の島嶼防衛戦

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もう一つの特徴が、「軍民混在の島嶼防衛戦」という性格。

2012年の陸上自衛隊富士学校、ここは防衛大臣直轄の隊員養成学校。そこの教官が隊内の雑誌に書いた論説には、周囲360度を海に囲まれた離島に敵の部隊が攻めてきて上陸したとき、そこに駐留する自衛隊がそれを追い返すことはできないと結論づけている。離島だからどこからでも上陸できる。それが過去の“沖縄戦”の教訓だと言っている。

そうなった場合には、敵に先に離島を占領させた後、ごく一部の部隊を残して、あとは離島から撤退する。ただし島民は中に残しておく。そして、敵が上陸した後、自衛隊が強襲上陸して奪回する。これが「島嶼奪還」と呼ばれる作戦。

そうなったときに、島を取り返しに行く際は、軍民混在の島嶼防衛戦を行うと書かれているそうだ。これはまさに、過去の沖縄戦の末期と同じこと。住民を盾にして、少しでも戦いを長引かせる。2013年に、陸・海・空の自衛隊が、沖大東島で演習をしたときに、この想定で行ったと『琉球新報』が報じていたという。

 

            (島嶼防衛戦争のイメージ図)

 

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                                   (了)                                                                                                                                  

No.759(2020.3.13)南西諸島の危険な軍備強化の実態(その1)

《現状認識》

「武器輸出反対ネットワーク」(NAJAT) ほかの皆さんが先頭に立って、全国各地での軍拡に抗する活動を展開されています。

2019/7に開催された、「宇宙に広がる南西諸島の軍備強化~大軍拡と軍事基地にNO! アクション2019」での講演記録をまとめて、パンフレットを作られました。それをベースに、要約をしてみました。

(NAJAT)は、下記で検索できます。

(ブログ)https://najat2016.wordpress.com/

または、武器取引反対ネットワーク(NAJAT) で検索

下図は、軍事評論家の小西誠さんが書かれた本:『オキナワ島嶼戦争 自衛隊海峡封鎖作戦』(2016/12社会評論社 1800円)に掲載。

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南西諸島というのは、種子島、馬毛(まげ)島から、奄美大島を経て沖縄本島、そして宮古島石垣島与那国島と、台湾まで111Kmの地点まで連なっていますが、新しく自衛隊基地が作られた、または作られつつある島です。更に、長崎県佐世保に水陸機動団、馬毛島にも米軍の空母艦載機であるF35戦闘機の離発着訓練場が作られようとしています。また、後方部隊の巨大な兵站(へいたん)基地が計画されているようです。以下、自衛隊基地が出来た順に、与那国島奄美大島宮古島石垣島の状況をこのパンフレットに書かれたポイントを参考に列記します。

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(1)「共存」への不安・・・与那国島 

当初、島の人口は1500人まで減っていました。そこに、二年間で陸上自衛隊航空自衛隊がやってきました。自衛隊員200人プラス家族という、島にとって無視できない数の自衛隊。最近では、自衛隊内外の情報を収集・整理する「情報保全隊」が入り込んでいると言われています。

 

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東京新聞2019.8.6)によれば、「住民を調査・監視し、島嶼戦争の対スパイ戦の任務に当たることが想定される」との軍事専門家の意見も紹介されています。この部隊は、後述の奄美大島にも配備された模様であり、宮子島・石垣島でも配備されるだろうと言われています。

この島に行くと目につくのが、丘の上にあるレーダーです。対空レーダーが駐屯地のすぐ横にできました。もう少し東に異様な形の対艦レーダーが立っています。最近話題になっているのが、弾薬庫の存在です。これは、『東京新聞』の望月衣塑子さんが取材されました。以前から緑の四角い構造物があり、これは弾薬庫に違いないと言われていたのですが、最近はっきりおしてきました。これは(地上覆土式)といって、盛り土をして、それに横穴をあけて、中に弾薬を貯蔵する者です。この弾薬庫が、駐屯している人数に比べてものすごく大きい。これは将来必ずミサイル部隊がやって来ると言われています。

 

(2)生活圏に侵入する自衛隊・・・奄美大島

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2019年3月に奄美大島自衛隊が駐屯してきました。分屯地にはミサイル部隊が駐屯します。

この島では、山腹を切り開いて基地が作られました。ですから、島の人々が道を走っていてもこんなものが出来ているとわからない。そのため、時々刻々と基地が作られていく様子を、島の人がドローンで撮影し、発信されてきました。奄美市にできた駐屯地では、30ヘクタールという広大な山頂部分を切り開き、絶滅危惧種や希少種などの珍しいせい御体系を破壊しました。そこに、警備部隊230人と地対空誘導弾部隊60人など約350人が駐屯しました。

瀬戸内町にはやはり二つの山の上に出来ています。片方が警備部隊130人、地対艦誘導弾部隊60人など合わせて250人が駐屯する予定です。もう一方は貯蔵庫や地下弾薬庫です。山の土手に穴をあけて弾薬庫にしました。全長50mの行動が5本作られています。ここは、宮古・石垣・与那国という前線基地に対して、弾薬などを貯蔵する後方拠点になっていきます。

奄美大島は以前から、普段島民が集う講演に自衛隊が軍事車両を集結させ、いろんなことをしています。2018年の秋、まだ基地がオープンする前にも地対空ミサイルを搭載した車両が一般道を爆走訓練しました。こういう光景がこれから他の島々でも見られるようになるだろうと言われています。2019年4月1日に奄美空港自衛隊のC2輸送機が着陸しました。民間空港なのに事実上、軍民共用空港になっています。数年前から、米軍のオスプレイがここに来て離発着しているそうです。2019年9月に、奄美駐屯地で日米合同演習が行われました。

島の人々にとって、「軍事が民間空港や港湾や公園など、市民の生活圏に侵入している」と感じられているそうです。

 

(3)水汚染と弾薬庫の危険・・・宮古島

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同じく2018年に、自衛隊宮古島にも駐屯してきました。

宮古島の中心の少し北に千代田という地区があり、元はカントリークラブであったところを陸上自衛隊がミサイル基地にしました。

南西諸島配備の自衛隊の司令部が宮古島にやってくるという話です。島の南東部、海岸沿いにある保良(ぼら)集落の鉱山跡地に、ミサイル弾薬庫と射撃訓練場を作る計画です。

宮古島は、琉球石灰岩という非常に水を吸収しやすい岩石で出来ています。島には山がありません。雨が降ると全部が直ちに地下水になるので、長い間、島民たちは水不足に苦しめられてきました。2000年に非常に大きな地下ダムができて、農業用水が確保され、畑で水を撒けるようになりました。やっと渇水の危機から解放されたばかりの島でした。軍事基地が出来るとものすごく水を使います。戦車や戦闘機などを洗いますから、汚れた水が地下にしみ込むことが懸念されています。

千代田地区にできた駐屯地には、2020年3月までに地対艦ミサイル部隊と地対空ミサイル部隊250人が配備され、さらに警備部隊380人、司令部を合わせて800人が駐屯する予定です。ここはまさに前線の島で、事前集積拠点になっています。住民に対しては「造らない」と説明していた弾薬庫が作られ、中距離多目的誘導弾の弾薬が運び込まれていました。防衛相が陳謝し、弾薬を島外に運び出す事態になりました。

保良地区にはミサイル弾薬庫と射撃訓練場の建設が計画されています。与那国島と同じく地上覆土式という、盛り土をした中に弾薬庫を作ることになっています。一番近い民家はこの弾薬庫から250mしか離れていません。一番遠いところでも500mです。ですから、保良の人々の生命や財産は最初から考慮されていません。保良地区は反対決議を挙げていますが、全く無視されています。美上井翔は、2019年9月の時点で用地の過半を取得したと現地メデイアは報じています。島の人々の激しい抵抗が続いています。

下地島には3000mの滑走路があり、ジェット旅客機の離発着訓練に使われてきました。この滑走路建設の話が出た1971年、軍事転用を恐れる島民の反対に対し、当時の琉球政府と日本政府との間に「軍事目的には使用しない」という覚書が交わされ、翌年、沖縄の本土返還の年に工事着工に至ったものです。民間機の離発着訓練はその需要が減り続け、2014年には航空会社は撤退しました。2019年になって、突如、新ターミナルが建設され、航空会社が定期便の就航を開始しました。多くの島民にとっては突然の出来事。一方、沖縄本島 普天間飛行場の閉鎖・返還を求める県民の声を背景に、下地空港をその代替地にしようという声が一部の政治家や、地元の誘致派から上がりました。今後、建設中の自衛隊基地とつながる形で軍事利用されるのではという懸念が浮上しています。

 

(4)誘致派市長との攻防・・・石垣島

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2019年3月、最後に工事が着工されたのが石垣島でした。ここは一番インフラが整った島です。基地予定地は石垣市の中心部にあります。ここに、警備部隊とミサイル部隊が700人~800人駐留することになっています。

基地予定地は、於茂登山の山麓にあって、非常に美しい農地です。歴史を見てみると、沖縄戦の最後の段階で石垣島の市街地に住んでおられた人々が、日本軍に強制移住させられて写ってきた場所が、この周辺にあります。そこはかつてマラリアを媒介するハマダラ蚊の棲息地でした。3千数百名あまりの犠牲者が出ました。

戦後は沖縄本島に米軍嘉手納基地が作られました。嘉手納に住んでおられた人々がここに入植してこられて、やはりマラリアと闘いながら切り開いてこられました。

その入植近接地域に基地をつくろうとしています。平得大俣(ひらえおおまた)というところです。予定地を取り囲む4つの集落全部が反対声明をあげています。残念ながら、この島は市長が積極的誘致派で大変厳しい闘いになっています。

この島でユニークな闘いをされている人々の写真が下です。最高齢は90代半ば。小さいビニールハウスが攻防戦の中心。市は、これを「どけろ」と言ってきています。

 

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石垣島への基地建設に関連して、これまであまり語られてこなかった問題。基地予定地から2km余りのところに、VERAという愛称で地元民に親しまれてきた電波望遠鏡があります。国立天文台が建設し運用する施設で、青森県水沢から石垣島までの4か所、南北2300kmに渡って配備された同じ仕様の望遠鏡を組み合わせて、電波で見る銀河系の三次元地図を作る目的で建設されました。2019年4月、VERAを使って初めてブラックホールが観測されたというニュースが大きく報じられました。望遠鏡のアンテナの近くに基地ができると、レーダーや軍事通信などで様々な波長の電波が発信され、それが望遠鏡のアンテナで受信され、雑音となります。VERAの機能に重大な支障をきたす可能性もありますが、この問題について、天文台としての見解は明らかにされていません。基地建設に反対する運動の中で、この問題が取り上げられることもありませんでした。巨額の税金をつぎ込んで進められる科学・技術は、それにかかわる専門家だけのものではありません。

国や県、市に対抗する市民は、いわば、「ライオンと蟻」の態です。どの島でも、権力を恐れず、侮らず、軍事基地・ミサイル基地建設断念に追い込むまで、戦い抜こうという強い意志の下で行動が続く。

                                    (了)

No.758(2020.3.2)なんでもありの(安倍政権)が破壊しているもの

 《紹介・意見》

 現在進行中の、(新型コロナウイルス)による社会生活破壊に対して、今の自民党政権が対応しきれていないことは明らかである。

 その場しのぎの場当たり政治で、国民は疲弊しかけている。やれることは山ほどあろうけれど、優先順位と実現性、政治の責任がぼやけて見えないところに我々は、言うに言われぬ不安を感じるのだ。

 ならば、野党側はどうか? 具体的提言と発信がなされていない。能力不足。

 そのような状況の中で、下記の記事が、そうした自民党政治の限界を解り易く説明していると思うので紹介したい。

 

(記事の出典)『東洋経済 オンライン』2020.2.29

https://toyokeizai.net/articles/-/333304

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安倍「なんでもあり」政権が民主主義を破壊する : 

       「安倍一強」のもとにひれ伏す独立行政機関

 

薬師寺 克行 : 東洋大学教授  著者フォロー

 

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「今や安倍政権はなんでもありだ」

最近、こんな言葉が永田町や霞が関に広がっている。

森友学園加計学園問題に始まり、安倍晋三首相主催の「桜を見る会」、さらには検察官の定年延長問題と、政権中枢が関わる問題が表面化すると、場当たり的な説明で切り抜けようとし、それが破たんすると関連する公文書を改ざんしたり、廃棄したり。揚げ句の果てには法律解釈を強引に変更したりと、やりたい放題だ。

目の前の問題を処理するために、歴代内閣が積み重ね、作ってきた手続きや法秩序をいとも簡単に無視し続けているのだ。

失われつつある独立機関の政治的中立性

為政者が政権維持のために短期的な成果を上げようと強引な手法をとりたがるのは、安倍政権に始まったことではない。だからと言って手続きや法律などを軽視すれば、法秩序が揺らぎ、倫理観が壊れ、社会全体が混乱するなど、中長期的にはより大きな公益が失われる。

ゆえに、政権の行う政策などが公平さや公正さを保っているか、法律に抵触していないかを常にチェックする必要があり、そのために内閣からある程度独立した組織が政府の中にも作られている。具体的には会計検査院人事院内閣法制局などだ。広い意味では日本銀行なども独立性が認められている。

ところが今、これら独立性の高い組織が本来の役割である行政のチェックを行うどころか、安倍政権が起こす問題の対応に巻き込まれ、政治的中立性を失いつつある。

 

コロナウイルスとともに国会で大きな問題となっている東京高検の黒川弘務検事長の定年延長問題では、人事院内閣法制局が重要な役割を果たしている。森雅子法相は、定年が近づいてきた黒川氏の定年延長を認めるため、1月17日に法解釈の変更を「口頭」で決済し、その後、内閣法制局人事院と協議し、了承を得たと説明している。

この説明をすんなりと受け入れられないのは、2月12日の国会審議で、人事院の松尾恵美子・給与局長が「現在まで特に、(検察官の定年をめぐる)議論はない」と答え、検察官には国家公務員法の定年制は適用されないという従来からの政府の法解釈について、「同じ解釈が続いている」と答弁しているからだ。この答弁を見る限り、人事院が中立的な立場から内閣の対応にくぎを刺していると受け止めることができる。

「口頭」で法解釈を変更

ところが、松尾局長の答弁の翌13日、安倍首相が衆院本会議でいきなり「法解釈を変更した」と発言した。ここから人事院の姿勢が一変する。

松尾局長は12日の発言を「言い間違えた」と取り繕った。ところが、法解釈変更の決裁について、松尾局長は「内部で決裁をとっていない」と発言している。このあたりに心の揺らぎが見て取れる。一方の森法相は「口頭で決済した」と強弁している。

そして、もう1つの独立機関である内閣法制局は、近藤正春長官が安倍首相にしっかりと歩調を合わせて答弁をしている。さらに人事院内閣法制局との協議の記録がないとしている。

法律の解釈を変更してやりたいことをやるというのは、安倍政権の好む手法のようで、すでに憲法9条の解釈を180度転換し、集団的自衛権の行使を容認している。今回の法解釈変更というのは法律の世界では非常に重要なことであり、その目的や必要性、それが合理的であるかどうかなど説明ができなければならない。

当然、内閣法制局などとの協議の経過や最終的な決済などの文書がなければならないが、それが「口頭」というのである。まさに「なんでもあり」状態である。

人事院は自らの組織について、「国家公務員法に基づき、人事行政に関する公正の確保及び国家公務員の利益の保護等に関する事務をつかさどる中立・第三者機関として、内閣の所轄の下に設けられた」(人事院ホームページ)と説明している。

為政者が政治的目的などのために人事を歪めたりすることをチェックすることも、人事院の重要な役割なのである。松尾局長の初期の答弁には人事院の「矜持」を感じたが、安倍首相の本会議発言を機に一変してしまったのは残念としか言いようがない。

内閣法制局は官邸の追認機関になった

一方、内閣法制局は内閣に付属する機関ではあるものの、「法律問題に関し内閣並びに内閣総理大臣及び各省大臣に対し意見を述べる」(内閣法制局ホームページ)ことが業務の1つである。

憲法解釈をはじめ、法解釈の最終的なゲートキーパーの役割を果たし、歴代首相と言えども内閣法制局を無視して好き勝手な解釈を振り回すことはできない。それゆえに為政者から嫌われることの多かった組織でもあった。

ところが周知のとおり、安倍首相は外交官出身の小松一郎氏を強引に長官に起用した。小松氏は安倍首相の意向に沿った形で憲法9条の解釈を変更し、集団的自衛権を容認する姿勢を示して実現させた。この人事がターニングポイントとなって、今や内閣法制局は独立性を弱め、首相官邸の意思決定の追認機関となってしまっている。当然のことながら今回の検察官の定年延長問題でも、中立的立場からの発言は見られない。

会計検査院の変質も見逃せない。森友問題に関して会計検査院は国有地売却に関して説明がつかないほど価格が値引きされていること、あるいは関連する公文書が改ざんされていることにいち早く気づいていた。にもかかわらず、そのことを指摘しなかった。

会計検査院は国会や裁判所と同じように憲法に定められた極めて独立性の強い組織である。

ホームページには組織の責務を「この国のお金が正しく、また、ムダなく有効に使われているかどうかをチェックする機関です。会計検査院は、このような重要な仕事を他から制約を受けることなく厳正に果たせるよう、国会、内閣、裁判所いずれの機関からも独立しています」と高らかに紹介している。ところが実態は、積極的に政権に物申すことができなくなっている。

「安倍一強」と言われる政治状況のもとで、中央省庁は本来期待されていたボトムアップの政策の企画立案の役割が縮小し、主要な政策が官邸主導のもとトップダウンで決められ、役所はその下請け機関、執行機関となっている。その結果、官僚の士気は下がり、転職者が増え、モラルも低下していると言われている。

繰り返される思いつきの政策

であれば余計に、首相官邸が打ち出す政策などについて第三者的組織のチェックが重要になるのだが、すでに述べてきたように会計検査院人事院内閣法制局などの独立性の高いはずの組織が、本来の役割を果たせないばかりか、安倍一強のもとにひれ伏しているかのような状況になっている。

長く政権を維持してきた自民党だが、歴代首相でここまで統治システムの根幹部分に手を突っ込み、独立性の強い組織の主体性を奪ったケースはないだろう。

その結果、安倍首相やその周辺の一部の人間が思いついた政策などが専門的な知識もなく、時間をかけた慎重な検討もなく打ち出されている。そして、何か問題が見つかると、場当たり的な理屈を作って切り抜けようとする。その際、関連する公文書が改ざんされたり、廃棄される。今回のように、突然法律解釈が変更されることも起きた。

それを会計検査院などの組織がチェックし問題点を指摘しなければならないのだが、逆に政権の意向に沿って追認を繰り返している。これが今の安倍政権である。これでは権力の中枢から法秩序も倫理観も消えてしまい、統治システムの混乱は避けられない。そういう意味で今、日本はまさに危機的状況にあるといえる。

                                                                                                                                (了)

No.757(2020.2.19)「陸軍登戸研究所」見学で学んだ戦争犯罪

 神奈川県・藤沢市では、「市・人権男女平等平和課」と、「藤沢市平和の輪をひろげる実行委員会」という市民グループが共催する、「ピースリング・バスツアー」事業が長年継続されている。平和の意味を考える日帰りバスツアー。「明治大学 平和教育登戸研究所資料館」や「原爆の図 丸木美術館」などを見学・学習する機会があり、毎回、高齢者が多いけれども、50人余りの参加者がある。

 ・期待したこと:今回の学習ツアーに参加した動機は、下記の通り。

 人は、都合の悪い体験は語りたくないもので、戦争体験を継承するということの難しさはそのところにもある。加害体験などを継承することの困難な理由は、事実を語りたくない、語るに忍びない人々によって事実が埋没していることが大きい。

 自分も、戦争を知らない世代として戦争体験を継承するという場合、「追体験」することができるかどうかは決定的に大切だとつくづく思う。「追体験」とは、ある体験を自分のものとして疑似体験すること。意識的に探し求めれば、各地に残されている戦争遺産・遺跡の中から、日本軍部の行った戦争の本質を、容易に見出すことができる。戦争の記憶を失う前に、戦争体験談や戦争遺跡の持つありのままの姿から想像することで、「追体験」として継承することが実現できる。

 そういうことが可能なものの一つとして、この陸軍登戸研究所の史跡見学が身近にあった。

 ・学び、追体験したこと

事前の学習をしておかないと、学習ツアーはただの見学会に終わるので、多数ある中で、参考文献での下調べとして下記は簡潔で有用だった。

  1. 『フィールドワーク 陸軍登戸研究所』旧陸軍登戸研究所の保存を求める川崎市民の会 編 2009年 平和文化社
  2. 『私の街から戦争が見えた』川崎市中原平和教育学級 編1989年 教育史料出版会

                                                         

 現物は、ボランテイアの解説と資料館の展示で充分理解できた。

陸軍登戸研究所(第九陸軍技術研究所)は、戦争には必ず付随する「秘密戦」(防諜・諜報・謀略・宣伝)の側面を担った組織だった。

 米軍は、戦前・戦中のスパイ行動から、登戸研究所の存在は部分的には把握していたようである。川崎大空襲にもかかわらず、ここは占領後の貴重な(資産)として温存し、且つ、GHQによる主要な軍部所員の戦犯訴追も一切行われず、逆に、数人の主要な研究者は戦後まもなく米国に渡り、軍事研究にすら関与し、朝鮮戦争での生物(細菌・毒物)兵器やベトナム戦争での枯葉剤などにもつながったと言われている。

 この地域の主要部分は、アジア太平洋戦争の実相を伝える為にも、1950年に明治大学が史跡ごと購入したのであるが、大半は老朽化し保存されず、資料館に一括保存展示されている。

(ただ、残念なことに、最近新聞報道によれば、明治大学は、キャンパスの土地が手狭になったことから、「登戸研究所資料館」以外の貴重な遺跡の大半を取り壊す意向と言われている。)

 研究所組織と研究一覧画像等は、キーワード:(登戸研究所 画像)でのYahoo検索サイトも非常に参考になる。 

 

 ★何が保存・展示されているか

 登戸研究所は、戦争には必ず付随する、「秘密戦」:防諜(スパイ防止)・諜報(スパイ活動)・謀略(破壊・攪乱・暗殺)・宣伝(人心の誘導)を担う組織で、日中戦争の拡大とともに組織は拡充された。

 戦争の終盤期には、多数の研究・製造棟を有し、731部隊中野学校などとも繋がっていた。250人の幹部将校・技師らと、地元で秘密裏に採用された職員の総勢約1000名の規模に達した。               

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 この全景写真は、敗戦直前に米軍が撮影したもの。

 敗戦直後に大半の資料類は日本軍命令で焼却・廃棄隠滅されたが、戦争犯罪の歴史を調べた地域の市民・教員・高校生らの努力などで、貴重な証拠が一部発掘された。

 登戸研究所の史実から学ぶこと 

 この展示館は、戦争には必ず付随する、記録されず抹殺される秘密戦とその加害性にもに焦点を当てた稀有のものだ。

 都合の悪い体験は語りたくないという事からくる、加害体験のを継承の難しさから、戦争の事実が埋没されてきた。日本軍部の伝統で、戦後の保守政権(と自衛隊組織)に引き継がれている隠蔽体質が、歴史的に最大の汚点であったし、今の自民党政治と官僚機構に引き継がれている病巣そのものなのだ。

追体験」:「ある体験を自分のものとして疑似体験」して事実を認知することの大切さを、ここでも学ぶことができたのが大きな成果だった。

  

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(第一展示室)研究所の背景と目的、組織、他機関との関係、など。

(第二展示室)(馬鹿げた)“風船爆弾”の、米国本土に向けた作戦ほか。

(第三展示室)生物・化学兵器・スパイ機材など。731部隊/516部隊や中野学校・特務機関・憲兵隊などとの関係。

(第四展示室)偽札製造が中心。中国紙幣/インドルピー/米ドルなどの謀略印刷製造。秘密戦の中でも最も隠された部分。偽パスポートの製造もある。

(第五展示室)戦局悪化に伴う本土決戦体制と大本営の長野県松代ほかへの移転など。敗戦に伴う証拠隠滅。

 

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組織図

 


 

No.756(2020.2.11)内山 節 氏の新聞論説。“感情の危険な独り歩き”

                                       感情の危険な独り歩き

(注)内山 節

1950年生まれ。哲学者。1970年代以降、東京と群馬県の山村・上野村との二重生活をしている。現在、NPO法人・森づくりフォーラム代表理事など。 

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 以下、2020.2.9付 『東京新聞』の連載コラム:「時代を読む」のなかでの、内山 節 氏の 論説全文を熟読して受け入れ、納得するとともに、そこから自分の立ち位置と日々の行動に活かされているか、相当あやしいかも、という感想を抱かざるを得なかった。

 私はこの中で、「感情と知性」という一見心理学的な領域のように聞こえる二つの概念が、実は、日々の自分自身の判断と行動においても、整合性と矛盾の対立の申し子を生み出す源泉ともいえるという事を見つけたようにも思えた。

 とりわけ、近代社会でのバラバラな個人個人にとっては、大事な自分を評価しようとしない社会への不満の蓄積感情を土台にして、他者に対する攻撃的な感情が広がっていき、その個人の支持を得ようとする政治は、たえず敵を作り出しながら、他者に対して攻撃的でありつづける。そのことによって国民感情をあおり、それを自分たちの支持基盤として使おうとする。という、トランプ/安倍に代表される、今の世界的な政治の潮流に着目したい。

 自分にとっても不可欠なことは、その対立していそうな情報を正確に集積して分析する当然の習慣と実践、それを何らかの自分の行動に反映させるという、変哲もないことだ。 

 

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(以下、記事全文)   感情の危険な独り歩き

・物事を判断するとき、私たちは感情でするときと、知性で判断するときとがある。たとえば新型肺炎ウイルスのニュースをみて、とりあえず怖いと感じるのは感情による判断だし、さまざまな情報を集めてみると、それほどあわてる必要はないのかもしれないと思いはじめるのは、知性による判断だ。

人間たちは、感情と知性によるふたつの判断のバランスをとりながら、これまで暮らしてきたと言ってもよいだろう。 

・近代的な社会がつくられたとき、この社会は感情をそのまま表に出すのではなく、その感情を知性で再検証する態度を人々に求めた。感情のままに動くのは恥ずかしいことであり、その感情が妥当なものであるのかどうかを検証する知性を、大事にしようとしたのである。 

・だが最近では、この精査員的態度は薄れてきたように感じる。感情的な判断をそのまま発信することが、インターネット上では可能になっている。そればかりか、今日の政治の世界では、国民感情をあおりながら、自分たちへの支持を集めようとする手法が広がっている。対立する政治勢力を感情的に批判しながら、感情的多数派を形成しようとする政治が、現在では世界を席巻しているのである。 

アメリカのトランプ大統領の手法は、その代表的なものだが、日本の安倍政権も、常に敵をつくりながら、国民感情をあおってきた。このかたちはヨーロッパ諸国にも広がり、中国や韓国でも同じような政治がおこなわれている。現代世界では、近代社会がつくりだした約束事が崩壊してきたのである。私たちは、そういう時代と向きあわなくてはならなくなった。 

・だが、感情は必ずしも悪いものではない。たとえば困っている人を見かけて手をさしのべようと思うのも感情だし、いろいろなことに共感したり、関心をもつのも感情だったりする。問題は、そういう人間的な感情ではなく、ヘイトスピーチのように根拠もなく他者を攻撃する感情や、政治目的で国民感情をあおる政治がはびこっている」ことにあるといってもよい。 

・私はこういう時代をつくりだしたのも、近代社会のあり方なのだと思っている。近代社会は、バラバラな個人をつくりだした。この個人にとっては、大事なものは自分だけであり、その自分を評価しようとしない社会への不満が蓄積されていく。この感情を土台において判断するとき、他者に対する攻撃的な感情が広がっていく。とともにこの個人の支持を得ようとする政治は、たえず敵を措定(そてい)しながら、他者に対して攻撃的でありつづける。そのことによって国民感情をあおり、それを自分たちの支持基盤として使おうとするからである。 

・とすると私たちがめざすべき社会は、感情と知性のバランスが保たれ、感情が他者への温かさをつくるような社会なのであろう。そしてそれは、結び合う社会のなかで成立するものである。友人や家族のような、結び合う小さな社会のなかでは、感情はときに温かいものを生みだす。 

・今日の問題は、結び合いを失った社会、個人がバラバラになった社会がつくりだした問題なのである。そういう社会では、感情だけが独り歩きすると、ときにはそれは他者を攻撃する凶器になり、ときに政治的独裁の道具になってしまうことが、いま明らかになってきた。

                                                                                                                              (了)

                                                              

 

 

 

No.755(2020.2.2)自衛隊の中東派遣、安倍政権の狙い

《情報・提示》

今回の、自衛隊の中東派遣の裏に潜む狙いと効果について、適格な分析だと評価するので、原文を転送します。

(調査・研究)を名目とする今回の派遣は、実質の 、米軍主導の「有志連合」への参加ではないか!!                                                              

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※(半田滋 氏 のウェブサイト情報より転載。)

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70129

 

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  ( 中東に派遣される護衛艦「たかなみ」(海上自衛隊ホームページより))

 

自衛隊の中東派遣、異例の「1佐」を3人も送り込む

安倍政権の狙い、

「情報収集」のためではなかったのか?

半田 滋

中東への自衛隊派遣は1等海佐(1佐=他国軍の大佐)が3人も送り込まれ、この種の海外活動では異例の高官派遣となることが分かった。

際立つのは、米海軍の中枢のひとつである米中央海軍司令部に自衛隊として初めて連絡幹部を派遣することと、その連絡幹部が派遣される3人の1佐のうちの1人であることだ。

この米中央海軍司令部は、米軍主導の「有志連合」司令部を兼ねる。今回の高官派遣は、日本政府が「参加しない」と明言しているはずの「有志連合」への実質的な参加を意味するのではないか。

 

参加していない「有志連合」の主力に?

米国が60カ国以上の国々に呼び掛けたにもかかわらず、6ヵ国の参加にとどまった「有志連合」。米国を除けば、艦艇を派遣するのは英国、オーストラリアの2ヵ国しかない中で、日本の護衛艦1隻、哨戒機2機の中東派遣は「有志連合」の貧弱な情報収集態勢の「補完」を通り越し、「主力」となる可能性さえある。

米中央海軍は中東の親米国バーレーンに置かれ、「米海軍第5艦隊」と「多国籍軍による連合海上部隊」を束ねる米海軍の主要司令部。ペルシャ湾オマーン湾、紅海などの中東海域とケニア沖などの東アフリカ海域を任務海域としている。

この米中央海軍司令部に1月中旬、海上自衛隊の岩重吉彦1佐(49)が連絡幹部として派遣され、着任した。岩重1佐は、横須賀基地にある米海軍第7艦隊司令部の連絡官や、海上幕僚監部総務課渉外班を務めた対米連携の専門家だ。

これまで自衛隊連絡幹部のバーレーン派遣は、連合海上部隊のひとつである海賊対処を任務とする「CTF(統合任務部隊)151」への派遣にとどまり、現在、CTF151では1尉(大尉相当)1人が勤務している。

CTF151の上部機関である米中央軍司令部への派遣は過去に前例がなく、連絡幹部として1佐をバーレーンに派遣するのも今回が初めてとなる。

CTF151よりも上位にある米中央海軍司令部への高級幹部の派遣は、「有志連合」が2019年11月に立ち上げた「オペレーション・センチネル(番人作戦)」をめぐり、日本が米国と密接に関わることを意味する。 

自衛隊の1佐は佐官階級の最上位にあたり、将官になる一部を除けば、防衛大学校を卒業した幹部候補生が上り詰める階級でもある。「2佐(中佐相当)と1佐では集まる情報の量が異なる」(自衛隊幹部)とされ、陸海空自衛隊とも1佐の大半は年収1000万円を軽く越える。

米軍は「連絡幹部の階級」「派遣部隊の対米貢献度」などを基準に相手国へ提供する情報の質・量を変えている。例えば、2佐より1佐の方が出席できる会議の数が多く、自ずと得られる情報にも違いが出てくる。また艦艇だけより、艦艇と航空機を派遣した方が米国との間で交換する情報の中身は濃いことになる。

 

各国が派遣に及び腰な中…

「有志連合」への参加を表明した国々による「対米貢献度」をみてみよう。

英国は駆逐艦2隻を参加させ、オーストラリアはフリゲート艦1隻とP3C哨戒機1機の派遣を表明しているが、同じ「有志連合」のバーレーンサウジアラビアアラブ首長国連邦UAE)、アルバニアはいずれも艦艇や航空機の派遣を表明していない。

一方、連絡幹部を派遣したうえ、護衛艦「たかなみ」とP3C哨戒機2機を派遣する日本は、実態がスカスカの「有志連合」に対し、参加表明をしていないにもかかわらず、多大な貢献をするのは間違いない。

海上自衛隊の活動海域は、イランを刺激することになるペルシャ湾とホルムズ海峡こそ除外しているが、「有志連合」が活動海域と定めたオマーン湾からバブ・エル・マンデブ海峡までの公海で情報収集するため、「有志連合」の補完的役割を果たすことになる。 

もともと海賊対処を任務としてアフリカのジブチを拠点に派遣されている自衛隊のP3C哨戒機2機は、CTF151が必要とするアデン湾上空からの監視活動の8割を受け持っており、残り2割を英国、フランスなど欧州5カ国で分け合っている。つまり、海賊対処の監視飛行は、すでに海上自衛隊が「主力」となっているのだ。

1月11日、那覇基地を出発したP3C哨戒機2機は20日、アデン湾上空からの監視飛行を開始した。海賊対処と防衛省設置法の「調査・研究」にもとづく情報収集という二足のワラジを履いた活動とはいえ、監視飛行の8割を受け持つのだから、「オペレーション・センチネル」においても中心的な役割を担うことになるのは自明だろう。

 

「調査・研究」目的のはずなのに

説明が遅くなったが、中東へ派遣される残り2人の1佐は、2月2日に横須賀基地を出航する護衛艦「たかなみ」艦長の新原綾一1佐(44)と、「たかなみ」を含む4隻の護衛艦を指揮する第6護衛隊司令の稲葉洋介1佐(48)である。

稲葉1佐は、第6護衛隊の残り3隻を上部機関の第2護衛隊群司令に預けて「たかなみ」に乗艦する。

海賊対処に護衛艦2隻を派遣していた2016年12月までは護衛隊司令もアデン湾に来ていたが、1隻の護衛艦のために護衛隊司令が日本を離れ、中東に活動拠点を移すのは珍しい。

 

ちなみに海賊対処で現在、中東へ派遣されている護衛艦を指揮する水上部隊の指揮官およびジブチに拠点を置くP3C哨戒機を指揮する航空隊の司令は、それぞれ2佐である。

海上自衛隊は、海賊対処で派遣する幹部を2佐にとどめる一方で、「調査・研究」による情報収集には1佐を3人も派遣する。これは海上自衛隊が今回の中東派遣を重要視している何よりの証拠といえるだろう。

 

閣議決定と食い違う「安倍首相の発言」

昨年12月27日の閣議決定では、自衛隊の派遣目的を「日本関係船舶の安全確保に必要な情報収集」としていたにもかかわらず、安倍晋三首相は1月11日からサウジアラビアUAEオマーンを訪問し、各国に自衛隊派遣の説明をした際、13日付のツイッターで「日本関係船舶の安全を確保するため自衛隊を派遣することについても、完全な理解と支持を頂きました」とつぶやいた。

日本関係船舶の安全を確保するため、自衛隊を派遣することについても、完全な理解と支持を頂きました。 pic.twitter.com/yiFazd21Br

安倍晋三 (@AbeShinzo) January 12, 2020

派遣の目的が「安全確保に必要な情報収集」から、いつの間にか「安全確保」そのものに変わっている。「安全確保」のためには自衛隊による日本関係船舶の護衛などの具体的な対応が必要になるが、閣議決定の通りであれば、今回の派遣は「調査・研究」、つまり「見ているだけ」にとどまるはずである。

日本関係船舶に不測の事態が起きた場合、自衛隊法にもとづき海上警備行動を発令することも閣議決定に含まれるものの、発令するには防衛相が首相の承認を得る必要がある。

近くで日本関係船舶が襲撃された場合、即座にそんな手続きを行う余裕などあるだろうか。護衛艦1隻の派遣にもかかわらず、海上自衛隊が護衛隊司令を乗艦させることにしたのは、司令が現場で武器使用を決断できる立場にあると考えた結果ではないだろうか。 

1佐3人の派遣は、安倍政権が政治決断を避けてあいまいにしている中東派遣の「真の狙い」が「日本関係船舶の安全確保」であることをほのめかし、それを海上自衛隊に忖度させ、いざという時に現場に決断させる覚悟を示したものといえるだろう。

裏を返せば、これまでの自衛隊海外派遣で繰り返されてきたのと同様、機能不全に陥った「シビリアン・コントロール」を制服組が補い、「終わりよければすべてよし」につなげるシナリオが今回も描かれたといえる。

 

家族は混乱しているのでは?

筆者はP3C哨戒機が那覇基地を出発する前の1月10日、翌11日に海上自衛隊が実施した家族説明会の資料を入手した。

この資料では、自衛隊の活動について「日本関係船舶の安全確保に必要な情報を収集」「海賊対処行動に支障を及ぼさない範囲で実施」とあり、意外にも海賊対処が「主」、情報収集が「従」となっている。

 

                                 ( 自衛隊の家族説明会で配布された資料(1))

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その一方で、安倍首相は自衛隊の活動について、情報収集を踏み越え、「日本関係船舶の安全確保」と言い切っているのだから、家族は混乱しているのではないか。

別の家族説明資料には、派遣される隊員はいずれもPKO保険に加入した旨の説明があり、「海外派遣者の治療等(怪我や病気)を補償」と書かれている。さらに「死亡・7日以上の入院時、ご家族が現地に赴くための費用」についても説明している。

 

                                  自衛隊の家族説明会で配布された資料(2)

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最悪の事態を想定するのが組織の務めとはいえ、あまりに無神経な表現ではないだろうか。担当者が家族説明会でどのように説明したのか、気になるところだ。

とはいえ、この家族説明資料に書かれている内容についてさえ、政府は広く国民に対しては説明していない。今回の中東派遣とは何なのか、本当に必要性はあるのか、開かれた議論を抜きに航空機や艦艇の派遣ばかりを先行させ、既成事実化させてよいはずがない。

                                                                                                                           (以上)

 

 

No.754(2020.1.11)「戦場体験放映保存の会」の紹介

《紹介》

「戦場体験放映保存の会」という、地道な活動を続けるグループを知った。

東京新聞』2020.10.11付、(こちら特報部)記事を読み、納得できたので概略を紹介します。

また、そのグループのウェブサイトも後半で紹介します。

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(1)この会の趣旨と経緯は、こうだそうです。

 「戦争体験世代が他界していく中で証言を残そうと2004年、元兵士と若い世代の約100人の賛同により発足。2010年から「全国キャラバン」を編成し、全国規模で20才代から40才代を中心としたボランテイアたちが体験談の聞き取りを続け、収集した証言や手記などは、ネット上の「戦場体験史料館・電子版」で少しづつ公開している。」そうだ。

・この会のきっかけは、2002年に遡るという。

 当時社会党の代議士だった、故 上田哲 氏が主催する ”マスコミ世論研究所”  というのがあったそうで、上田代議士は、公衆電話から10円玉で行政官庁に自分の意見を伝える「十円玉運動」というのを提唱していたそうだ。

・これを知った、現在この会を中心的に運営している中田順子さんという人が、「草の根の言論は民主主義の基本。マスメデイアに負けない言論を掘り起こそう。」と意気に感じて、上田哲氏らと共に、中央省庁の電話番号を刷ったビラを傍らで配り始めたという。

・やっているうちに、上田哲氏らが立ち上げたネット放送局で戦場体験を放送する企画が持ち上がり、始まった。やってゆく中で,中田順子さんらは、「若い世代は戦争を知らない。(高齢の)語り手も、戦争体験が伝わっていないと感じ、「世代間の認識の溝に橋をかけられたら」との思いで、大々的に証言を集めることになり、2004年に、この「保存の会」が発足したという。

・新聞でも「体験募集」を呼びかけると、中国大陸や東南アジアの戦線、沖縄での地上戦、敗戦後のシベリア抑留・・・。さまざまな戦地にいた人やその家族などから連絡があり、取材対象者は二千人に膨れたという。

硫黄島での極限の闘い。戦場で民間人までも敵だと思って殺してしまった人。・・・ 

・「怖いのは、何かを成すためにと、戦争が是認されてしまうこと。体験世代がいなくなったらその空気はもっと濃くなる。それはもう始まっている。戦争やテロに巻き込まれたり、他国から侵略を受けたりするかもしれないからと、戦争には反対でも軍隊は必要と考える人も少なくない。こうした空気に乗じるように、安倍政権は軍備を増強する。」

・「「だけど」と中田さんらは考えている。そもそも戦争をしてでも成さねばならない何かってあるのか。ニュースを見ていると、若い人たち国益のためなら、してもいい戦争があると思うのかもしれない。戦争は適度にやったら勝てると思うのかもしれない。でも今、世界のどこかの戦場で兵士たちが見ている光景は、75年前に日本兵たちが見たみじめな光景と変わらない。」「戦争になったらあらゆる自由はなくなる。公共の利益を盾にして人権も制約される。戦争をする社会は、自分で生死を決められない。」

・「だから、「それでも戦争を肯定するのかどうか」を考えてもらうために、生の証言や記録を集める。どんな立場の人でもこだわらない。「無色」と「無償」「無名」がモットー。」

・伝え方は難しい。問題は、戦争体験に興味を持つ回路や時期が人によって違う事。 

SNSが発達した今は効きたい事だけを聞き、見たいものだけを見る傾向が強まっている。一人が見る情報には偏りがあるとも感じる。

・岐路に立つ若い世代のために、ひたすら残す。歴史の教科書には出てこない、「集めた証言が戦争を拒む力となるように、私達にできるのはそれだけ。」 と中田さんらは言う。 

 

(2)この会が発信するウェブサイトを紹介します。

「ここは戦場体験放映保存の会が運営する戦場体験史料館のウェブサイトです。」

戦場体験史料館  (クリック)  http://www.jvvap.jp/

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戦場体験放映保存の会について (about us) 2012-08-15

 もうすぐ消えてしまう戦場体験を、なんとか後世に遺さなくてはならない。 

 この危機感を同じくする元兵士と若者が手を携え、2004年12月、戦場体験放映保存の会は発足しました。

 元兵士・軍属、民間人として、あの戦場を知るお一人おひとりの体験談を、ビデオなどに記録する活動に取り組んでいます。 

 これまでに収録した証言は2500余。あの未曾有の戦争を語るには記録の集積はまだまだ足りません。「語らずに死ねるか」という痛切な思いを抱える元兵士・軍属・民間の戦場体験者はたくさんいるのです。 2010年からは「全国キャラバン」を編成し、全国規模で体験談の聞き取りを行っています。

  残された時間はもうあと僅か。今、切実に、この運動に関わっていただける方を求めています。

 体験者の皆様、ぜひあなたの体験をお聞かせください。資料のご提供もいただければ幸いです。若い方も、お知り合いの戦場体験者をご紹介ください。ボランティアとして関わっていただける方もご連絡をお待ちしています。 

 念のために申し上げますが、この保存運動は、あくまで体験者の「生の声」を真正面から記録します。「無色・無償・無名」を唯一の原則として、それぞれの考え方や立場を尊重しあいながら、ただ戦場体験を語り継ぎ・記録するという一点で手をつなぎ合い、たいせつな歴史として記録しおきたいと願っております。

 

「戦場体験リストについて」

  • 千人いれば千人の戦場体験があります。膨大な戦場体験記録を整理するため、「戦地」と「時期」の2つの観点で体験記録を分類します。
  • 複数の年代・戦地にまたがる体験をお持ちの方の場合は、複数箇所にお名前が掲載されています。ただしリンク先のページは同じです。
  • このリストによって、お一人おひとりの体験がどの戦地のどの時期に該当するのか一覧化することができます。

  検索のしやすさだけでなく、未曾有の総力戦であったあの戦争の地域的・時間的な

  広がりを感じていただくことが狙いです。

 

《催しの一例》

2019年6月22日(土)~23日(日)
会場:八重洲ブックセンター本店8階【入場無料】 

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