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No.743(2019.10.4)米軍が管制する日本の空域

批判 

(1)数年前にトランプ米大統領が来日したとき、大統領専用機「エアォース・ワン」で米軍の横田基地に降り立ったことに違和感を覚えた人もいると思います。これまで日本を訪問した米大統領は、すべて羽田空港に降りています。米軍基地に直接来て、しかも軍服を着て演説したのは異例で奇異でした。

(2)もちろん一般人とは違うので、大統領が空港で入国審査を受ける必要はありません。警備も米軍基地のほうがはるかに楽です。しかしそこにはもっと重要なメッセージがあったと思います。

 米軍は在日米軍基地から自由に出撃できることを誇示することだと。

(3)同じように基地に降り立ったアメリカの指導者がいます。1945年8月30日に厚木飛行場に降りた、ダグラス・マッカーサー連合国軍最高司令官。当時まだ厚木は日本海軍の飛行場でしたが、そこに将軍が降りたことは、改めて日本の敗戦を印象づけました。

 それ以来、横田も厚木も米軍の指揮下に置かれています。基地の中はもちろん、首都圏上空の「横田空域」は米軍の管制下にあるので、たとえば伊丹から羽田に飛ぶ飛行機は、房総半島に大きく迂回して南から着陸させられます。

 

 

以下、(参考文献)前泊博盛氏の『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」(「戦後再発見」双書(2)』を参考にしました。)

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 (横田ラプコンの管制空域(一都八県の巨大空域))    f:id:syounantheo:20190921103110j:plain

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● 1951年に締結された安保条約は、本来は講和条約と一体の「日米相互防衛条約」になる予定でしたが、吉田茂首相が憲法を改正しなかったため、米軍が一方的に日本を守る奇妙な「安全保障」条約になってきました。

 憲法の制約で「戦力」をもてない日本は戦争の主力になりえないので、米軍が指揮権をもつしかない。 矛盾の塊です。 

● 日本にある米軍基地周辺の空は、完璧に米軍の管制権のもとにあります。

つまり、日本の領空を米軍が支配している、ということです。

それが、日本の民間航空が飛行機を飛ばすことに影響しているのです。

横田ラプコン、嘉手納ラプコン、岩国ラプコンの順に。

※ラプコンとは、「rader approachcontrol(レーダー侵入管制)」の略です。 

 首都圏の空はアメリカの支配下にあるというわけです(空だけではないのですが)。

 

 ●一都八県(東京都、栃木県、群馬県、埼玉県、神奈川県、新潟県山梨県、長野県、静岡県)の上空が、そのままスッポリと米軍の巨大な支配空域になっていることがわかります。これが「横田ラプコン」で、この空域を管理しているのが東京都福生市にある米軍・横田基地です。(P70)

 どのルートを通る飛行機も、4000メートル~5500メートルの高さがある「横田ラプコン」を越えるために、一度房総半島(千葉)方面に離陸して、急旋回と急上昇を行わなければいけないことがわかります。

 ●そのため利用者は、本来は不要な燃料経費を価格に転嫁されたり、時間のロスを強いられたりしているのです。なにより見逃せないのは、こうした非常に狭い空域を不自然に急旋回・急上昇して飛ばなければならないため、航空機同士のニアミスが発生するなど、危険性が非常に高くなっているということです。(P71)

 アメリカの管制空域に配慮して、航空会社が飛行機を飛ばさなければいけない、というわけです。

 ●そして、首都圏をとりまく米軍基地の実態にも触れています。

『横田、座間、厚木、横須賀と、都心から3~40キロ圏内に、まるで首都東京を取り囲むかのような形で米軍基地が存在しているのです』(P71,72)

 

空だけではないのです。つまり、日本の首都圏は、アメリカがやろうと思えばすぐに制圧できる、という状況なわけです。

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※加えて、『東京新聞』の報道によれば、 

羽田空港の国際線発着回数を増やすため、東京都心上空を通過する形で設定される新ルートの一部は、米軍が管制権を持つ「横田空域」を飛行することが政府関係者への取材で分かった。米側は、実務者間での調整で飛行を了承していることも判明。今後、空域の一部返還を受けるかなど、両国間で具体的な詰めの協議を進める。

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一部返還されれば2008年以来となるが、横田空域は羽田空港の管制空域の西側に隣接していて現状も多くの旅客機が迂回を強いられている。羽田の機能を最大限活用するためにも、根本的な解決が求められそうだ。

返還以外にも、連絡方法などを決めた上で運航ごとに許可を受ける方法なども適用可能で、両政府間の協議機関である日米合同委員会での正式合意の必要性なども検討するとみられる。

政府は2020年の東京五輪パラリンピックまでに、羽田の発着枠を現在の年間44万7千回から最大3万9千回増やし、国際線に振り分ける方針で、実現にはこれまで避けていた都心上空ルートが不可欠だった。

政府関係者によると、新たな着陸ルートのうち、埼玉県付近から南方向に直線ルートで降下する際、C滑走路では悪天時、A滑走路では好天時と悪天時のいずれも、さいたま市練馬区上空などの飛行ルートが横田空域を通過することが判明。米側に通知した。

新ルートは、北側から南に向けて真っすぐ降下するため、二本の滑走路へ二機を同時に着陸させることが可能となることなどから、発着回数を増やすことができる。

横田空域は在日米軍横田基地(東京都福生市など)が管制業務を実施している。2008年9月の一部返還では、羽田を離陸した飛行機が従来より低い高度でこの空域を飛び越えられるようになり、経路が短縮され、利便性が向上した。

◆西の「壁」日本は返還要求

・首都圏上空の西側、伊豆半島から新潟県まで一都八県にまたがる広大な「横田空域」は、年々過密さを増す羽田空港発着便にとって常に障壁となってきた。都心上空を飛行し、横田空域も通過する新ルート設定が、さらなる返還への道を開くか注目される。

横田空域の管制権を米軍が持ち続けているのは、1945年8月、日本が連合国に占領され、上空の管制業務を米軍が掌握したのが始まり。1959年に業務の大半は日本側に戻ったが、基地上空は今も米軍の管制下。日米地位協定に基づき、米軍が横田、厚木、入間各基地での米軍や自衛隊機の発着を管制している

日本政府の全面返還の要求に対し、米側は一部返還には応じてきた。在日米軍再編の一環として日米両政府が合意した2008年の一部返還では、高度が大幅に低くなったことで、西側へのスムーズな上昇やルート設定が容易になり、経路が短縮され羽田国際化の大きな弾みとなったが、それ以降は進展がなかった。

増え続ける航空需要に対応するために羽田のさらなる発着増は不可欠な上、空域を最大限使えないことによる空の渋滞は続く。今回、都心上空ルートの設定について政府関係者は「米側の了承は得ている」と説明、スムーズな解決を示唆する。だが米側はこれまで「さらなる返還は難しい」との立場で、日本政府の求める全面返還への道は依然、険しい。

<横田空域> 新潟から静岡まで1都8県の上空に、高度約2450メートルから約7000メートルまで6段階の階段状に設定された空域。在日米軍の訓練空域などがあるため横田基地が管制を担当し、域内には厚木、入間など米軍や自衛隊の基地がある。日本側は全面返還を求めているが、米側は「米軍の運用上の問題で困難」としている。主に羽田空港の出発機が、北陸や西日本方面に向かうルートを遮る形になるため、南側への迂回(うかい)や高度制限を強いられている。1992年に約10%、2008年に約20%が返還された。            (『東京新聞』記事はここまで)

 

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      嘉手納ラプコンの管制空域(返還されたが権限は米軍に)

 

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これは「嘉手納ラプコン」といわれる沖縄上空の米軍の支配空域です。半径90キロ、高度6000メートルと、半径55キロ、高度1500メートルのふたつの空域が、沖縄と久米島の上空をすべておおっています。』(P67)

  • 半径90キロ、高度6000メートル
  • 半径55キロ、高度1500メートル

の2つの円柱の空域が、沖縄には存在します。

『一方、那覇の上空にとても小さな円筒があるのが見えるでしょうか。これが那覇空港の管制空域です。半径5キロ、高度600メートル、笑うしかないほど小さいですね。』(P69)

那覇空港の管制空域は、あまりに小さい。

  • 半径5キロ、高度600メートル

米軍の管制空域にすっぽり入っています。

『この嘉手納ラプコンは2010年3月末、日本へ「返還」され、管理権が日本に移ったことになっています。しかし実態はなにも変わっていません。依然として米軍機優先の管理体制が継続しているからです。あとで似た話が出てきますが、これが「形だけは返還して、手間のかかる作業は日本にやらせるが、大事な権限は手放さない」という、米軍が日本側に「譲歩」するときの典型的なパターンなのです」(P69,70)

この「嘉手納ラプコン」は日本に返還されたわけです。

ただし、実態は何も変わっていないのですね。権限はアメリカがしっかり握っているという。

 

岩国ラプコン:詳細不明 

岩国ラプコンの実態は、まだ明らかになっていないのか、ネット上にはほとんど情報はありません。

日米地位協定入門」には、わずかですが、記述があります。 

『※実はいままであまり知られていなかったのですが、岩国基地の上空にも、管制権が米国の下にある「岩国ラプコン」があり、松山空港に離着陸する民間機が影響を受けていることがわかりました。』(P72) 

今まで知られてなかった、と説明されています。

これらは、日米安全保障条約の下に位置する「日米地位協定」によって、米軍に保証された権利となっています。